96 立つ鳥跡を濁さず
盗賊の住処の探索もあらかた片付いた。
盗賊による犠牲者の墓は浄化された事で骨が全部無くなった為、供養塔のように慰霊碑を建てる事でみんなが納得していた。
「オンスさん、ありがとうございます」
「いえいえ、商隊とはいえ、元々劇団でしたので小道具大道具担当はいましたから」
そう、この慰霊碑は元劇団の大道具担当と小道具担当が私の作ったマップチェンジの御影石みたいな床から彫刻して作ったものである。
『盗賊に命を奪われし数多くの魂、今浄化されてここに眠る』
慰霊碑が完成し、遺族や友人達が全員で祈った。
その時、柔らかく温かい風が私達の頬をなぞった様な気がした。
『アリガトウ……アリガトウ……アリガトウ……』
多くの人達の最後の感謝の言葉が聞こえたような気がした。
これで本当に魂が救われたと感じたのだ。
「ユカ様! 見てください!!」
「これは!?」
なんと、ホームの持っていた魂の救済者が光り輝いていた!
凄い……人の感謝の声が聞こえたら、僕に力がみなぎってきたようなんです。
「ホーム、これは本当に君の為の聖剣になったんだね」
『魂の救済者』どうやらそれは人々の感謝の気持ちを受け取ると力になる剣のようだ。
つまり、今後ホームが困っている人達を助けてあげればそれだけ剣は強さや鋭さを増していく事になるのだろう。
『情けは人の為ならず』を具現化したような剣だ、ホームなら確実に使いこなしてくれるだろう。
「ユカ様! 私の杖も見てくださいませ!」
ホームに張り合っているのか、ルームは魔獣使いの杖を構えてファイヤーボールの詠唱を始めた。
「ルーム! 危ない!」
「見ててくださいませ! ファイヤーボール」
ホームは底無し沼の魔法陣目掛けてファイヤーボールを放った。
その威力は……今までの彼女の最大魔法、ファイヤーウォールを遥かに上回る威力だった。
「凄い……」
「ユカ様! 見ててくださいました? 見てくださいました?」
ルームが飛び跳ねて興奮していた、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供だ。
「わかったから少し落ち着いて。凄いのはよーくわかったから」
「ユカ様、なんだか少しそっけなくないですか?」
またルームが少し不機嫌になってしまった、女心というものはよく分からないものだ。
「はいはーいぃ。アンタたち、バカやってないでさっさと片付けるよぉ」
「そうだぞ、もうここには当分来ないだろうからな。持って行けるものを持って行かないと」
「当分? ですか?」
「ああ、ここには銀狼王とその妻が眠っている。また一年後くらいにあの双子と来よう」
フロアさんは大きくなった双子を銀狼王に見せる為にまた来ようと言っているのだ。
「そうですね! では早く帰れるようにしましょう!」
そして私達は盗賊のため込んだ財宝と武器防具、焼け残った奴隷売買の証文と幾多のレアアイテムを手に入れたのだ。
「ソークツの手はどうする?」
「うーん、焼いてしまうか」
「でもレジストファイヤーリングあるんでしょ」
「それだけ切り取るか」
ソークツの斬り離された両手には各種レジストリングがはめられていた。
そのリングを手に入れる為に私は全部の指を切り取り、リングを指から抜き取った。
しかしそれはリングというにはあまりにも大きく、ブローチかペンダントみたいなサイズだった。
「全部のリングと斧は切り離したよ」
「では私のファイヤーボールで焼いてしまいますわ!」
「ルーム、気を付けてね」
「大丈夫ですわ! ファイヤーボール」
魔法抵抗の無くなったただの肉塊に過ぎないソークツの手はルームの倍加した魔力であっという間に消し炭になった。
「よし、これでもう忘れ物は無いね」
「大丈夫です!」
そして私達は数日かかったが多くの物を手に入れて、ようやく盗賊の住処を後にする事が出来た。