932 壁を歩ける魔法?
世界最高の大魔女ですら、この体たらく。
本当にこれで良いのだろうか?
ボクはなんだか不安になって来た。
でも、実際A級モンスター、下手すればS級モンスターが多数出現し、村々を蹂躙していくスタンピードの足跡がこの村で全部消えていることを考えると、大魔女エントラ様、龍神イオリ、それにフロアさんにサラサさん達はこの村に押し寄せたスタンピードを退け、モンスター達を全滅させたのだろう。
村人達の安心しきった顔は、その脅威を乗り越えた安堵から来ているのかもしれない。
前日、浴びるほどに酒を飲んでいた大魔女エントラ様は今日の午後まで完全に寝てしまい、起こす事が出来なかった。
下手に起こそうとすると、魔法で攻撃される可能性すらあったのだ。
流石にこのだらしなさには弟子になっているはずのルームさんも呆れていた。
「まったく、私が見ていなければこのザマですわ」
「そ、そうなんだね……」
そうか、最近は台魔女エントラ様の生活リズムはルームさんが管理していたので、パーティーを二つに分けた際にはその監視役がいなくなったのでその分はっちゃけてしまったという事か。
そろそろ起こして話を聞き出さないと。
台魔女エントラ様は昨日は酒が入っていたとはいえ。話をはぐらかされたまま寝てしまったようだから。
「ン……。もう、朝かねェ」
「朝どころかお昼ですわ!」
「あ、ルームちゃん、どうしたのかねェ、そんなに怖い顔をして」
どうやら大魔女エントラ様は全く自覚が無いようだ。
今は寝起きでルームさんに怒られているので、話をするのはその後にした方が良さそうだな。
大魔女エントラ様は残っていた酒を抜くために水をがぶ飲みさせられたようだ。
どうやらアルコールは毒の解除とか浄化では解消できないらしい。
まあそれも仕方ないな。
「ユカ、昨日は何があったのかねェ、アンタ達がここに走ってきたような気がするけど、よく覚えていないのよねェ」
ダメだ、この大人。早くどうにかしないと。
「エントラ様、ボク達はスタンピードの足跡を追ってこの村に来たんです! それで村に着いたら村の真ん中で火が燃えていた、そりゃあモンスター達の襲撃だと思いますよ」
「アハハハハ、それで間違えて人の家を真っ二つにしてしまったってワケだねェ、そりゃあ御気の毒様だねェ」
全く笑い話じゃないぞ。
まあ、それでも今のボクのスキルならこの家を修理するくらいは簡単にできるけど。
『ユカ、一つ思った事があるんだが、エントラ様にそれを伝えてくれないか? 実は、思いついたのが壁を床のように向きを変えて歩けたら、ユカのマップチェンジスキルって壁にも適応できるんじゃないのか?』
『ソウイチロウさん、それって、壁を地面みたいに出来るかって事ですか?』
成程、確かにボクのスキルマップチェンジは自分の踏んだ場所の地面と同じものを作り出す事の出来るスキルだ。
もしそれで踏んだものが壁だったとしても、横向きでマップチェンジできればボクが真っ二つにしてしまった家の壁を元に戻せるかもしれない。
「エントラ様、お願いがあります、ボクに魔法をかけて壁を歩けるようにしてみてもらえますか?」
「えっ? 一体どういう事なのかねェ? 妾に何をしろというのかねェ? まあ、その程度の事ならすぐに出来るからやってあげるけど」
そう言って大魔女エントラ様はボクに魔法をかけた。
見た感じ、変わった感じはしないけど、これで本当に壁を歩けるのだろうか?
「まあ、試しにそこの壁を歩いてみるんだねェ、ただし、足はそちらに向くけど、物は下に向かって落ちるからねェ、水筒とかには気をつけるんだねェ」
ボクは試しに地面から壁にそのまま歩いてみる事にした。




