92 1000近くの魂に救済を
『魂喰らい』それは盗賊のボス『アジト』が謎の薄闇色のローブの男から受け取った魔剣である。
邪神への生贄を捧げる為に今までに数多くの魂を啜ってきた血塗られた魔剣。
私がかつて作った“ドラゴンズスターⅥ”の呪われた盾や“ラスティング・サーガ3”の邪王の装備等、ゲームには呪われているが攻撃力が鬼のように高いハイリスクな武器はたまに出てくる。
しかしこの魂喰らいはその中でもかなり邪悪で実際に1000近くの魂を奪ってきた邪剣である。
「エリア……やめた方が良いよ」
「いいえ、私でなければできないのです!」
エリアの意思は強かった。
まああの盗賊達やソークツドークツ兄弟、アジトとの死闘から数日経っていてエリアの体力とMPはかなり回復している、それでも1000近くの魂を救おうとは……すでに神の領域である。
「さあ、報われぬ魂達よ……私に語り掛けてください」
そういうとエリアは物言わぬはずの魔剣に触れた。
ヴォオオオオオオーーーン ウォォォォーーーン……。
魔剣の周りで空気が澱んでいる、私達が見てもこの剣が呪われており、大勢の魂を奪ってきたものだと分かる程だ。
昔、美術館や博物館で古代文明展や刀剣展を見た事があるが、ガラス越しでもここまで邪悪な空気を漂わせた剣はそうは無かったはず。
「エリア様……大丈夫でしょうか」
「私、心配ですわ……」
レジデンス兄妹やマイルさん、フロアさんも心配そうに見守っている。
幸い、シートとシーツはここにはおらず、今は眠っているのを外でアニスさんが見てくれているので安心だ。
「邪悪なるものに奪われた魂よ……今ここでその負の呪縛から断ち切り……正しき理の中でその悲しき魂の浄化をせん…………レザレクション!!」
エリアが込めた祈りの力は一点に集中し、魂喰らいの刀身に指先から注ぎ込まれた。
漆黒の刀身に純白のエネルギーが注ぎ込まれる。
そして、その刀身から出てくる音は唸るような音から断末魔の叫びに変わっていた。
ギャアアアアアア!!! グァァアアアアア!
魂をえぐる様なおぞましい幾多の叫び声が聞こえてくる。
しかし、エリアはもっと多くの魂の呻きを直接聞いているのだ。
「ううううう……くぅううう……」
エリアが苦しそうな苦悶の表情をうかべている。
しかし今下手にこれをやめると反動で暴発した負のエネルギーが誰にどのような邪悪な影響を与えるかわからないのだ。
「はぁっ……はあっ……。まだです……まだ足りません……」
エリアの祈りは二時間以上に渡っていた。
エリアのMPと精神力は休んだことで復活していたはずだ、それでも一度のレザレクションでエリアはその精神力と体力の大半を使い果たしていた。
私のエネルギーや魔力を分け与える事が出来れば……。
「ルーム、魔導士のキミに聞きたいんだけど、人に魔力を分け与える方法ってあるのかな?」
「ユカ様……あると言えばありますが……」
「その方法を教えてくれ!」
「……わかりましたわ」
ルームの教えてくれた魔力を分け与える方法は、相手の手を握る事。
これで多少の魔力なら分け与えられるがそれは微々たるものである。
その後顔を真っ赤にして教えてくれたのは……相手の唇に直接口移しで魔力を分け与える方法であった。
こちらの方が実際の魔法を唱える力を分け与えるので与える魔力は手つなぎとは比べ物にならないようだ。
「…………ぅぅう……はぁ……はぁ……」
エリアの体力と精神力はもう限界に近い、そりゃあ1000近くの魂を一人で浄化しようとしているのだ、これは既に人を超えた神の領域である。
「エリア、ボクの力を受け取ってくれ!」
私はエリアの手を握り、エネルギーを分け与えた。
それでもまだ1000の魂を救うには力が足りなかった。