922 モンスタースタンピード対黒竜王ヘックス
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大魔女エントラの魔法で本来の力を一時的に取り戻した黒竜王ヘックスは、大きく雄たけびを上げた。
すると、サイクロプスの周りにいた小型の魔族やモンスターがあっという間にその雄たけびで動けなくなってしまった。
圧倒的なレベル差の前にはただの咆哮ですら、高位魔法に匹敵する威力になるのだ。
サイクロプスの襲来に乗じて村を襲っていたモンスターや魔族は、上位種ですら気絶し、下位種はその雄叫びだけで消滅していた。
幸い、人間達はその場から避難していたのでこの咆哮による犠牲者はいなかった。
「死にたいヤツは俺様が相手してやろう、恐れを知らないならかかってこい！」
全盛期の力を取り戻した黒竜王ヘックスの前にはS級モンスターですらひれ伏す。
また、翼を持つ黒い巨大なドラゴンから逃げる事は不可能だ。
逃げようとしても死、戦っても死、ここにいるモンスターは人間を襲い、さらに家畜や蓄えを餌にしようとしていた捕食者だったが、圧倒的な黒竜王ヘックスの力の前には狩られる側の存在でしかなかった。
「ガァァァアッ！」
「グギャギャギャァッ！！」
勝ち目がないとわかっていたS級モンスター達だったが、それでも逃げるよりは黒竜王ヘックスと戦う事を選んだ。
鉄すら容易に切り裂く鋭い爪、人間には到底扱えない火炎や吹雪、一瞬で岩山すら砕く拳、モンスターは多彩な攻撃で黒竜王ヘックスに攻撃を仕掛けた。
だが、その全ての攻撃が全く通じず、黒竜王ヘックスには傷一つ与えられなかった。
むしろ黒竜王ヘックスと戦いダメージを与えることの出来た邪神竜ザッハークや大魔女エントラ、ユカ達の力の方が常識外だったと言えるだろう。
「その程度でこの黒竜王ヘックスが倒せるものか、思い知れ！」
黒竜王ヘックスの爪はキマイラを一瞬で切り裂き、火炎はサンドゴーレムを一瞬で溶かし、サイクロプスを踏み潰しで粉々に砕いた。
「つ、強すぎる……あれ、クロちゃんなの……？」
ワタゲは遠目にモンスターに囲まれた黒竜王ヘックスを見ていたが、そのモンスターが一瞬で消え去ったのを見て驚いた。
黒竜王ヘックスが村を襲ったモンスターを蹂躙するまでにほんの数分もかかっていなかった。
ワタゲの村を襲ったモンスターの数は村人を全滅させ、さらに村を何もない更地に出来るほどの規模だったが、黒竜王ヘックスの前に一匹も残ってはいなかった。
何故この村にこんなに大量のモンスターが押し寄せたのか、それは邪神竜ザッハークの魔力の影響を受けたモンスターがダンジョンから外に溢れ出たスタンピードのせいだった。
コレだけ大規模なスタンピードが起きれば、本来なら村は一人とて生き残ることは出来なかっただろう。
だが黒竜王ヘックスはスタンピードすら上回る程の脅威だったと言える。
数百を超すS級モンスターの群れより、一匹のドラゴンの方がよほど強かったのだ。
「き、奇跡だ。この村はあの黒いドラゴンの神に救われたのだ！」
避難していた村人達は歓喜の声をあげた。
本来なら村を捨ててもスタンピードのモンスター達にどれだけの村人が殺され、ほんのわずかにでも生き残ることが出来れば奇跡と言える状態だったのだ。
それが村に舞い降りた一匹の巨大な黒竜により、スタンピードの魔物は全てが葬り去られた。
「フン、この程度、肩慣らしにもならなかったな！」
鼻息を荒くしていた黒竜王ヘックスだったが、その身体がどんどん小さくなっていった。
「な、何故だ！？ 俺様の身体がまた、縮んでいるのか！」
「あーあ、どうやら時間切れみたいだねェ、対象の時間を巻き戻す魔法はかなりの魔力を使うからねェ」
「エントラ、また時を遡る魔法を俺様に使え！」
「さーて、どうするかねェ、アンタの態度次第だからねェ」
「エントラァァ！」
残念ながら魔法の持続時間の切れた黒竜王ヘックスは元の姿の小さなブラックドラゴンに戻ってしまった。
