921 襲われる村
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大魔女エントラはヘックスの方を見ながらニヤニヤしている。
「そうねェ、悪くないかもねェ。村にそんな強いのがいるとなれば魔物やどこかの国もそう簡単に攻め込めなくなるからねェ」
「エントラ、貴様は俺様に何をさせようというのだ?」
「まあ、悪いようにはしないから、安心するんだねェ、クロスケ」
龍神イオリはワタゲ達の村に近づき、その飛行高度を下げた。
「どうやら村に近づいたようじゃな、それではそろそろこの辺りで降りるとするか」
流石に村にドラゴンがいきなり現れたとなると大騒ぎは確定だ。
だから龍神イオリは村から見えないくらいの位置でワタゲの家族や大魔女エントラ達を降ろし、再び少女の姿に変化した。
「ここから先は歩きだねェ」
「うむ、そうじゃな」
大魔女エントラ達が歩いて村に向かっていると村の方から煙が上がっているのが見えた。
「おや、アレは何かねェ?」
「えんとら、どうやらぼやぼやしている場合ではなさそうじゃぞ!」
龍神イオリは駆け足で火の上がっている村に向かった。
龍神の変化した少女の速さは人間を遥かに上回り、彼女はあっという間にワタゲの村に到着した。
「仕方ないねェ、それじゃあ妾も急ぐとするかなェ」
大魔女エントラも飛行魔法ですぐに村に向かった。
すると、ワタゲの村を襲っていたのは、巨大な一つ目の巨人だった。
「うわぁぁぁあ! 助けてくれー」
「ザッハーク様、お力をー!!」
「終わりじゃ、この村はもう終わりじゃ……」
村は突如現れたサイクロプスによって壊滅していた。
人々は逃げ惑い、村を捨てた者達は魔物のうろつく荒野に逃げざるを得なかった。
「うわぁぁー」
「どけ、怪我するぞ」
サイクロプスを蹴り上げたのは紫の民族衣装を着た少女イオリだった。
「ここは危険じゃ、早く逃げろ」
「お、お嬢ちゃん。アンタ……」
「ワシの事は気にするでない。さっさと行くのじゃ!」
龍神イオリはサイクロプスの前に立ち、睨みつけた。
流石のサイクロプスも龍神の目を見て怯えたが、その後巨大な棍棒を振り下ろして攻撃してきた。
「ウインドカッター!」
大魔女エントラが魔法で風の刃を作りサイクロプスの手を切り裂いた。
「グゲェェェ!」
手首を切り落とされたサイクロプスの棍棒は自らの足の指の上に落ち、サイクロプスは足の指を何本か骨折してしまった。
「こんなやつワシ一人で十分なのじゃがな」
「イオリ、ここはちょっと譲ってくれるかねェ」
「まあ、構わんが、おぬし一体どうしようというのじゃ?」
大魔女エントラはここであえてサイクロプスを倒すことを演出しようとしているようだ。
「ここで妾達があの怪物を倒してしまうと、神と崇められて面倒くさいことになってしまうからねェ、ここはアイツに目立ってもらおうと思ってねェ」
「ほう、なるほどな。そういう事か」
どうやら龍神イオリは大魔女エントラが何を考えているのかを理解したようだ。
「ではワシはある程度のところまであのモンスターを痛めつけておけばいいのじゃな」
「そうそう、トドメは刺さないようにお願いねェ」
龍神イオリが巨大なサイクロプスと戦っていると、ワタゲ達とヘックスが村の入り口に到着した。
それを待っていた大魔女エントラはヘックスを呼び、魔法陣の中に立つように指示した。
「な、何だ、これは?? 俺様に何をしようというのだ?」
「まあ、アンタにとって悪い事じゃないから安心するんだねェ」
そういうと大魔女エントラは杖を掲げ、何かの魔法を唱え始めた。
「こ……これは!?」
すると魔法陣にはエネルギーが満ち溢れ、みるみるうちに小さなブラックドラゴンだったヘックスが黒竜王と呼ばれた時の姿に戻っていった。
「時を操る魔法、これなら一時的にアンタの本来の力が使えるってわけよねェ」
「そうか、そういう事か! これならあのモンスターも倒せる! グォオオオッ!!」
本来の力を取り戻した黒竜王ヘックスは大きく咆哮を上げた。




