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919 ワタゲの村へ

◆◆◆


 大魔女エントラはワタゲの両親に邪神竜ザッハークと創世神クーリエ・エイータの話をした。

 それはこの地で語られている話とはまるで真逆のものだったため、ワタゲの両親は驚くしかなかった。


「そ、そんな。世界を作ったのはザッハーク様ではなく邪神グリエータだったなんて……」


 この土地ではザッハークが創世神、クーリエ・エイータが邪神グリエータとして語り継がれている。

 むしろそれに疑問を抱く者がいなかったくらいだ。


 だが、その信じていた事が全くの真逆だったと知らされたのだ。

 そりゃあ驚くしかないだろう。


 だが、実際に彼等を助けたのは大魔女エントラとその仲間達、そう、邪竜と恐れられていた黒竜王ヘックスなのだ。


「まあおぬし達がすぐに信じられぬのも無理はあるまい、じゃが事実はいずれ受け入れねばならぬ。そこから目を逸らして生き続けるのは辛いものじゃぞ」

「あ……あなたは一体……」

「ワシはおぬし達の子供と馬車に乗っておったのじゃが、声で気付かぬものかのう……」


 まあドラゴンに変化した際の声はハッキリ言えばかなりエフェクトがかかったような声になっていると言える。

 だからワタゲの家族が龍神イオリに気付かないのも当然と言えるだろう。


「ま……まさか、この話し方は、馬車にいたあの女の子??」

「ふむ、ようやく気が付いたようじゃな。そう、ワシの名は龍神イオリ。そこにおるへっくすの仲間だと思えばよいわ」

「ヘックス……まさかそこの小さなブラックドラゴンが暴虐の邪竜ヘックスだというのですか!?」


 ワタゲの家族はあまりの事態に驚きの連続だった。


「そうじゃ、そこにおるのは力を失っておるとは言え、へっくすそのものじゃ」

「まさか……暴虐の邪竜が私達の娘を……それはなぜなのですか、ドラゴンの神様」

「そうじゃな、それを話すと長い時間になりそうじゃからな、まあワシの背に乗るがいい。空を飛びながら話してやろう」


 龍神イオリはワタゲの家族達とフロアやヘックスを乗せると空高く舞い上がった。


「さあ、おぬし達の村に連れて行ってやろう、どこに向かえばよいのじゃ?」

「私達の村は……ここよりかなり西の外れになります」

「そうか、しっかりと掴まっておるのじゃぞ」


 そう言うと龍神イオリは山から舞い上がり、空高くを飛んだ。


「もう手を放してよいぞ、ここからはゆっくりと飛ぶとしよう」

「ドラゴンの神様、ありがとうございます……あなたは一体……」

「ワシの事はイオリと呼ぶがよい、ワシはここより遥か遠方の海の彼方にあるミクニの守護神じゃ」

「あなたは、異国のドラゴンの神様だったのですね……」


 イオリは大きくうなずき、優雅に空を飛んだ。


「そうじゃ、さっきの質問じゃがな。何故暴虐の邪竜と呼ばれたへっくすがおぬし達を助けたのか……じゃったな、それはおぬし達を助けたわけでは無い。あやつが守りたかったのはそこにおるワタゲなのじゃ。ワタゲ……おぬしはな……」

「イオリっ、いらない事を言わないでくれ!」

「なにも照れる事は無いじゃろうが、クロスケ。実はな、ワタゲ、おぬしはかつてこのへっくすが共に過ごした娘の生まれ変わりなのじゃ」


 龍神イオリの話に驚いたワタゲの家族だったが、理由を聞いて納得していた。


「わたしが、クロちゃんの??」

「うむ、昔のおぬしの名前はフワフワじゃったかな、そこにおるフロア殿の一族の祖先じゃ」

「だからなぜそうペラペラと話すんだ!!」

「何じゃ、そんなに知られたくないことじゃったのか?」

「そ、そういうわけでは無いが……」


 話を聞いて驚いたワタゲだったが、その後すぐにヘックスをギュッと抱きしめた。


「そうだったんだ、わたし、クロちゃんとずっと昔から一緒だったんだね……」

「う……うむ、ワタゲ……実はそうだったんだ」

「クロちゃん、これからも仲良くしてね」


 ワタゲはこの話を聞いた上で、その事実を受け止め、ニッコリとヘックスに微笑んだ。



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