913 邪神竜対大魔女
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邪神竜ザッハークの放った黒い波動はバグスに向けて放たれたはずだった。
だが、その攻撃は当たる事無く、バグスの手前で消えてしまった!
「な、何故だ? 我の黒き波動が!」
「身の程知らずがキミだと思い知ったかなァ」
「グバガァァァアッ!?」
バグスの前で消滅した黒い波動は、何故か邪神竜ザッハーク自身を後ろから攻撃した。
それを見ていたバグスはニヤニヤと笑っている。
「何故だ!? 何故我の攻撃がキサマに当たらずに我に? 一体どうなっているのだ!?」
「多分キミには一生理解できないよォ」
「何だと、それは何故だ!? 我は神、それもこの地域の者達全てが信仰する程の力を持つ神だ。その我が理解出来ないとは、何故なのだ!?」
「この世界にいる限りは決して理解できないからねェ、永遠に悩み続けるがいいさァ。でも、楽になる方法はあるよォ、それは……この事を考えない事さァ」
バグスは邪神竜ザッハークを見下ろしながら冷たい目線を突きつけた。
「わ.わかった。もうお前に逆らわない。それで、我はどうすればいいのだ?」
「そうだなァ。そこにいるボクの邪魔をする奴らを片付けてくれないかなァ、そこにいる役立たずの始末も任せるよォ」
邪神竜ザッハークはバグスに逆らう気を失っていた。
そして、彼の言うがままに大魔女エントラ達を攻撃し始めた。
「ハハハハハ、それじゃァここはキミに任せてボクはここを離れるよォ、まだまだやる事があるからねェ」
そう言い残し、バグスは姿を消した。
彼の言うやる事とは一体何なのだろうか?
その場に残されたのは邪神竜ザッハークと大魔女エントラ達だった。
狼狽えているのはアナ、ブーコ、トゥルゥーの三人だ。
彼女達が慕っているお姉様こと、魔将軍アビスは今離脱中で彼女達に指示する前に逃げてしまった。
「そ、そんな……お姉様がいない今、わたし達にどうしろと……」
「アナ、そんなこと言っている場合じゃないって、このままじゃアタシ達までアイツにやられてしまう!」
ダークリッチやバンパイアロードですら全く歯が立たない相手、それが邪神竜ザッサークだ。
そのザッハークは大魔女エントラ達だけでなく、魔将軍アビスの眷属であるダークリッチのアナ、バンパイアロードのブーコ、ビーストマスターのトゥルゥーまで敵とみなして攻撃を仕掛けてきた。
「くっ、このダークフィールドでも防ぎ切れないなんて!」
「アナ、あんなヤツに勝てるわけないって、お姉様もいないしここは逃げた方が……」
「逃げるったってどこに逃げるのよ! アンタ、アレから逃げれると思ってるの?」
「やだ、まだ、まだ死にたくない……」
魔将軍アビスの眷属である三人の娘は、圧倒的なレベル差のある邪神竜ザッハークに怯えていた。
そう、普段狩る側だと思っていた自分達が狩られる側になってしまった事を実感したからだ。
「フン、貴様らが何者かは知らんが、我の贄になるがいい!」
邪神竜ザッハークの黒い波動が三人を襲った。
いくらダークリッチの魔力でも邪神の力に対抗できるものではない。
相殺する事も出来ず、邪神竜ザッハークの攻撃を喰らうしかなかったアナ達は何も対抗できず消滅を待つだけだった。
しかし! そんな彼女達を助けたのは、敵であるはずの大魔女エントラだった!
「ここでアイツにアンタ達を吸収させるわけにはいかないからねェ!」
「な、何故? わたし達はお前達の敵なのに……」
「あの邪神竜相手にお互いが戦っている場合じゃないからねェ、手伝えとは言わないから、そこで邪魔にならないように大人しくしててくれるかねェ」
「…………」
大魔女エントラに命を助けられたアナは、ワタゲに向かい何かの魔法を唱えた。
「な、何をする!?」
黒竜王ヘックスが叫ぶが、アナはそんな彼に一言つぶやいた。
「足手まといはいない方がいいでしょう」




