911 バグスとは?
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「とりあえずアビスには一旦ここを離脱する形でシナリオを書き直させてもらったよォ。まだ彼女にはやってもらう事があるからね、ここで退場させると後々フラグ構築が面倒くさくなるんだよォ」
バグスの言っている意味は大魔女エントラや龍神イオリ、黒竜王ヘックスには通じていないのだろう。
それもそうだろう。
彼の言う事は、現代社会でゲーム開発に携わったかゲームをプレイしたヘビーユーザーしか理解できない単語の羅列だ。
この事から推測できるのは、バグスは創一郎と同じ現代日本からの転生者であるという事だろう。
彼が転生者だとして、一体元になっている人物は誰なのだろうか?
創一郎ことユカの事を知っている事からも彼が創一郎と同じ職場の人間だと言う事は想定可能だが、このバグスの中の人物が誰なのかをまだ誰も把握する事は出来ない。
何故なら彼の正体に一番気づくはずのユカの中の創一郎は今砂漠の国の古代遺跡に挑戦中でここにもザッハーク神教の総本山にもいなかったからだ。
だからバグスが何をやっても誰もその思考や行動原理、または能力にたどり着かないのだ。
彼は今までも魔将軍アビスや魔将軍マデン、魔将軍パンデモニウムといった強敵に協力していた。
彼自身は魔族ではないようだが、魔族に加担している。
それは彼が激しく人間を憎んでいる為だ。
何故元クリエイターと思われるバグスがそこまで人間を憎んでいるのか、それは誰にもわからない。
しかし、一つ言える事があるとすれば、彼はこの世界のシステムをメチャクチャにして楽しんでいるということだ。
そして、彼はそれを出来るだけの力と数値変換や乱数調整を使いこなし、この世界にあり得ない事態を平気で巻き起こすのだ。
たとえどのような天変地異クラスの魔法でも彼を傷つける事は決して不可能だ。
何故なら魔法が彼にたどり着く前に数値を全て0にしてしまえば何も無かった事にできる。
本当ならやろうと思えば彼は全ての数値を0にしてこの世界すら消滅させる事も容易に可能だ。
不幸中の幸いか、彼がそれをしないのは、バグスがこの世界の歪みや不具合を楽しむために0の数値は乱発せずに色々と数値をいじっているからなのだ。
「とんでもない強敵だねェ、妾が今まで見た敵の中でもコレほど異質なヤツを見たのは初めてだからねェ……」
「う。うむ。ワシもこれほど得体の知れないヤツを見たのは初めてじゃ。こやつの中には言葉にしようのない何かおぞましいものが蠢いておるわい」
大魔女エントラも龍神イオリも目の前にいる謎の男バグスの正体が何一つ掴めていない。
何故なら魔族にしろ人間にしろ今までの敵はまだ魔力で敵の強さや行動がわかったが、このバグスはそれらの何一つとして通用しない。
だから相手を把握して戦う事が出来ないのだ。
「まァいいよ、今はまだキミ達を倒す時じゃない。ユカと一緒に魔王を倒したら良い。ボクはこの世界の魔王が生きようが死のうがどちらでも良いからねェ。まァ面白おかしくシナリオを盛り上げてくれるなら善も悪もボクのコマ。つまりはキャラクターに過ぎないんだよォ!」
そう言いながら笑ってバグスは姿を消した。
「バイバーイ、後始末はキミたちに任せるよォ。さァ、このザッハーク神教の魔将軍アビスに完全にメチャクチャにされた場所をどうやって切り抜けるのかなァ? せいぜい楽しみにしておくよォ」
それが彼の言い残した台詞だった。
そして、大魔女エントラの作った異空間に残ったのは彼女以外に龍神イオリ、黒竜王ヘックスだけだった。
「さて.敵もいないならさっさとここから抜け出そうかねェ」
そう言うと大魔女エントラは高く杖を掲げた。
すると、異界門の扉が開き、彼女達は元の世界に戻ってきた。
そして、大魔女エントラ達が見たのは、魔将軍アビスに見捨てられたダークリッチのアナ達だった。




