910 バランスブレイカー
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突如現れた謎の男バグス。
彼は大魔女エントラの絶大な魔力を片手で受け止めて平然とした顔をしている。
「困るんだよねェ、バランスブレイカーに勝手に世界のシナリオに介入されるとォ」
「アンタ、確か以前にユカの妨害をしたヤツだねェ、何故この空間にいるのかねェ?」
バグスは不適な笑いを浮かべながら答えた。
「そんなの簡単だよォ。単に数値を入れ替えただけさァ。ここの移動座標を別のフィールドの番号とねェ」
流石の大魔女エントラもこの不可解な行動には驚いたようだ。
「な、何なのかねェ、こんな魔法は長年生きている妾でも初めて見たねェ……」
「魔法ゥ? 違うよ、コレは数値変換と乱数調整さァ。まァ、いくらキミ達に言っても理解出来ないだろうけどォ!」
そう言うとバグスは魔将軍アビスに放たれた大魔女エントラの作った魔力球を指先一つで消した。
「な、なんだってのかねェ、あれだけの魔力を一瞬で消したと言うのかねェ!!」
「さァ、お返しだよォ」
「えんとら、後ろじゃ!!」
龍神イオリが声を出さなければ大魔女エントラは自らの魔法で大ダメージを受けているところだった。
なんと、バグスは魔法を使わずに大魔女エントラの魔力球を数値変換で彼女自身に戻るように調整してしまったのだ!
「おやァ、驚いたかなァ。コレはユカくんのマップチェンジと同じようなスキルだよォ、まァ、コレを使いこなせるのは世界でもボクだけだろうなァ、」
このデタラメな能力を使いこなせるとバグスは言っている。
大魔女エントラ達には残念ながらバグスの能力の正体はわからないようだ。
多分ここにユカがいればこの能力の正体に気がつく事も出来ただろう。
だが肝心のユカは砂漠の国の地下遺跡にいるのでそこからこの場所の状況を知る事は出来ない。
だからバグスの能力が何なのかを誰も把握できないのだ。
バグスとは一体何者なのか?
行く先々でユカ達の行動を邪魔しているこの人物、一体何が目的だと言えるのか。
ユカを敵視している事からも何か彼に関係ある人物なのは間違いない。
そして、この数値変換という常人には到底使いこなせないスキルを自在に使いこなす。
今までの遺跡崩壊や、ヘクタールのモンスター化、ユカと創一郎の意識の分離、これらは全てバグスが数値をいじった事で生じた不具合、つまりバグなのだ。
「まさかねェ、作る側より一度こういう壊す楽しみを知ってしまうとォ、もう作るのが馬鹿馬鹿しくなってくるんだよねェ。どうして開発日ギリギリまでデバッグで苦しまなきゃいけなかったんだろうねェ。コレは荒らしが楽しいって気分もわからないことはないなァ」
どうやらバグスは創一郎と同じ世界からやって来たゲームクリエイターらしい。
だが、その正体は一体誰なのか??
「余裕はなさそうだねェ、コイツ……魔将軍アビスより、強い!」
「おやァ、流石だねェ。でも今はまだアビスをキミ達に消滅させられるワケにはいかないんだよォ、ボクの計画にはまだ彼女が必要だからねェ」
魔将軍アビスはバグスを見て驚いている。
全てを余裕の舐めた態度で見ていた魔将軍アビスにとっても、このバグスは得体の知れない存在と言えるのだ。
「お前、オレを助けてくれるのか」
「おやおや、キミは可愛い女の子って設定なんだから、口調を下手に変えないでほしいなァ」
「わ、わかったわ。それでアタシちゃんはどうすればいいのよ」
「そうだなァ、とりあえずは……自宅待機で連絡を待ってくれるかなァ」
「自宅待機? 何よそれ」
「そうか、キミは社会人経験なんてものないんだったなァ。自宅待機ってのは、次の仕事の指示が上司から出るまでは自分の家で仕事の指示を待つ事だよォ。社会人の常識なんだけどねェ」
「わ、わかったわ。とにかく一旦ここから離れて城に戻ればいいのね」
魔将軍アビスはバグスが開けた異空間の穴から抜けてこの場を離脱した。




