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90 銀狼王の子供達

 これでヘクタールの奴隷売買の証拠は見つかった!


「よし! これでゴーティ伯爵の城に戻れるぞ!」

「ユカ様、やりましたね!」

「早く収穫祭のお料理が食べたいですわ」

「よかった……」


 後はこの盗賊の住処で終わらせる事をしてから城に戻る事になった。


「みんな、その前にする事があるんだ」

「ユカ様?」


 私達が次にするべき事、それは偉大なる銀狼王・ロボとブランカさんを弔う事だった。

 そして私達はロボとブランカの屍の前に戻ってきた。


「僕は彼に助けてもらわなければここで死んでいたかもしれない」

(わたくし)はブランカさんに助けてもらいました……この恩は決して忘れませんわ。その為にもあの双子ちゃんには美味しいビーフを食べさせてあげますわ」

「ルーム、ただ美味しい物与えるだけで甘やかしちゃいけないよ……」


 みんな多々思う事はあれど、銀狼王への感謝を彼の横たわった屍に伝えていた。

 そして一緒にいて双子を世話していたアニスさんが私に対してこう言ったのだ。


「ユカ様! しばらくの間、双子ちゃんのそばからいつも離れないでください」

「アニスさん、それはどういう事ですか?」

「ユカさん、動物は生まれて最初に見たものを親だと思い込みます。ですので目が開いた時にあなたがいないと何を親と思い込むかわかりませんよ」


 フロアさんの言葉で思い出した。そういえばそうだ。インプリンティング、刷り込みと言われるものが動物の本能にはあったんだ!


「大体普通の動物は十日前後で目が開きますから、今からだと収穫祭の頃になるかと思われます」


 双子の狼、シートとシーツ。銀狼王・ロボと彼の妻ブランカさんの忘れ形見だ。

 私はアニスさんからミルク用の柔らかい藁を渡してもらい、双子に温かいミルクを飲ませてあげた。


 その後、シートは大きくあくびをし、シーツは再び眠ってしまうのだった。


「ユカ様、どうかその子を抱っこしてあげてください」


 赤ん坊とはいえ大型犬並みの大きさだったが、私はシートを抱っこしてみた。

 柔らかく温かい感触が腕に伝わってきた。


「キャン! キャン!!」


 私を親だと思ったシートは喜んでしっぽを振りながら私の事をペロペロ舐めてきた。


「ハハハ。よしてよ、くすぐったいよ」


 そのすぐ後、首を振りながら辺りの臭いを嗅いだシートは私の手をぴょいと離れ、臭いを頼りにロボの巨体にもぞもぞしながらゴロゴロやハイハイで近づいていた。


「ユカさん、やはり同族は本能で分かるんですかね」

「そうかもしれないね」


 動かないロボの巨体のそばでジーっとしていたシートだったが、その後とても大きな泣き声を上げた!


「キャオオーーーーーーン!」


 それを聞いたのか、寝ていたシーツも起きて臭いをたどりながら白いブランカの下に同じようにアニスさんの手の上からぽてっと落ちると、もぞもぞとハイハイでたどり着き、吠えたのだった。


「キャーーーーン!」


 刷り込みとは別でやはり親がここにいるとわかっていたのだろうか。

 二匹の狼の赤ちゃんはそれぞれ父親(ロボ)母親(ブランカ)の屍の前で何度も何度も吠え続けたのだった。


「ロボとブランカさんのお墓を作ってあげよう」



 双子はマイルさんとフロアさんに抱えられてじっとしていた。

 刷り込みで私が敵でないとわかっていたので、その仲間だとわかっていて吠えたり暴れたりしなかったのかもしれない。


 私達はロボとブランカの死体を焼いた。

 そのまま持ち運ぶにはあまりにも大きすぎたからだ。

 そして、ロボの遺言で銀狼王の毛皮は私が受け取る事にした。

 これは子供を託した最後のお礼として銀狼王・ロボが私にくれた物なのだ。

 ロボとブランカの骨は山の中腹の見晴らしの良い場所に埋める事になった。


「この地面を数メートルの穴にチェンジ!」


 私がマップチェンジで作った二つの墓穴にそれぞれロボとブランカの骨が埋められた。

 そして、その墓標には巨大な一メートル以上のロボとブランカのそれぞれの立派な牙が立てられた。


 手厚く弔われた銀狼王とその妻は、見晴らしの良い山で永久に子供達を見守るのだった。

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