909 予期せぬ乱入者
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大魔女エントラの前に手も足も出ない魔将軍アビス。
彼女(?)は生まれて初めて恐怖を感じていた。
そう、死ですらない完全消滅への恐怖だ。
魔界の怪物、シェイブシフターが長い年月をかけ、多くの敵を取り込み、強化し続けた姿、それこそが魔将軍アビスの正体である。
だからどのような敵でも自らに取り込む事で生きて来た魔将軍アビスにとっては、自身以外の存在は全て取り込み糧にする対象でしかない。
だから相手に恐怖を感じる事なんてものはなかった。
他の魔将軍四天王も魔将軍アビスにとってはいずれ取り込んで自らを強化する為の糧でしかなかった。
だが魔将軍はそれぞれが最強レベルに近い能力特化の魔族なので今の時点ではまだレベル的に優位でなければ取り込めない相手。
もしくは効率的に人間や他の生き物に恐怖を与えるには自身が動くよりも生かしておいた方が恐怖の感情を得るのに効率的と見て取り込まずに置いておいた相手というべきだろう。
つまり、魔将軍アビスには互角な相手はほぼ存在せず、自身より強い相手は指で数える程度、それも理由があって生かしている程度に考えていた。
当然ながら人間や神の手下などは自らの相手になるようなものではない、それが魔将軍アビスの中の考え方だった。
しかし、その魔将軍アビスに辛酸を舐めさせた相手が二人存在した。
それが大魔女エントラとユカだ。
魔将軍アビスは確実な計画で国をボロボロにし、人を苦しめてその憎悪の感情を力にしていた。
だが、ユカは仲間達とその計画をぶっ潰し、公爵派と呼ばれる悪徳貴族を次々と打ち倒していった。
魔族と人間達の合戦で大敗を喫することになったのもユカと、その中にいた創一郎のせいだ。
また、双方共倒れにするつもりでアンデッド化したグランド帝国の都をユカの仲間で、創世神の片割れであるエリアに完全浄化されて無効化され、操ったはずのグランド皇帝も正気に戻されてしまった。
一方の公爵派貴族は空帝戦艦アルビオンともどもユカに全滅させられ、その首魁であったテリトリー公爵は魔人化したがそれすらもユカ達に倒されてしまったのだ。
このように魔将軍アビスの完璧な計画はそのことごとくがユカとその仲間達によって潰されてしまったのだ。
「そ、そんな……このオレが、消える!? バカな、そんなのありえねぇ!?」
あまりの恐怖についに女性口調すら保てなくなった魔将軍アビスは、大魔女エントラの圧倒的な魔力の前に立ち尽くすしかなかった。
「さあ、そろそろ最後の時だねェ。その身体の中にどれだけの生命やマイナスの感情を取り込んできたかは知らないけど、もうそれも出来なくなるからねェ!」
「や、やめろ、いや、やめてください……や、やめてぇー!!」
命乞いをする相手を無惨に踏み躙っていたぶるのは魔将軍アビスの至福の時だった。
しかし、今は無様に大魔女エントラ相手に命乞いをする立場だ。
「アンタ、今までにどれだけの命乞いして来た相手を踏み躙って弄んだのかねェ、自分だけ助けてもらおうなんて、虫のいい話じゃないのかねェ……」
「そ、そんな、ゆるして、ゆるして……」
魔将軍アビスがありえないほど情けない表情を見せている。
それでも大魔女エントラは手を緩める気は無さそうだ。
「さあ、ついに最後の時だからねェ!!」
「うわぁおあー!!」
大魔女エントラの放った魔力は弱体化した魔将軍アビスを消滅させるのに十分な力だった……だが!
「困るんだよねェ、勝手に重要キャラをここで退場させられたらァ、ゲームのシナリオ作り直さないといけなくなって後々調整が難しくなるんだよォ!」
「お、お前は……」
なんと、大魔女エントラの魔力を片手で受け止めたのは謎の薄闇色のフードの男、バグスだった!




