907 彼女の掌の上
◆◆◆
魔将軍アビスはまさかの攻撃方法に驚いていた。
自身が作った数十本の瘴気の槍が彼女を後ろからめった刺しにしたからだ。
「な……何故? なんで瘴気の槍がエントラではなく……この魔将軍アビスに!?……」
魔将軍アビスの前に立っている大魔女エントラは全く傷一つ負っていない。
一体どうなっているのだろうか。
実はこれは……大魔女エントラが攻撃が当たる前に自身の前にワープゾーンを空中に作ったからだった。
そしてその出口は魔将軍アビスの真後ろに設定、この事により全力で槍をめった刺しにしようとした攻撃が全部魔将軍アビスに刺さったわけだ。
コレはとても想定できるものでは無かっただろう。
攻撃を避ける方法は超スピードでかわすが、そうでなければ無効化する、あるいは防御の徹底化、コレが普通考えられる方法だ。
だが、大魔女エントラはあえて攻撃を避けるでもなく、防御や無効化をするわけでもなく、ワープゾーンを使って攻撃の全てが敵に刺さるように誘導したわけだ。
コレは以前ユカが作ったワープ床を見て思いついた方法だ。
また、以前彼女が黒竜王ヘックスと戦った際に黒く光り輝くブレスの方向を変える方法が思いつかなかった反省点だとも言える。
この方法なら相手がどれ程の攻撃で迫ってこようとも、そのエネルギーや場所は全て相手の背面に出るようにすれば攻撃を受けずに自滅させる事が出来るのだ。
「そ……そんな方法が……あるなん……て」
「だからアンタは妾に勝てないのよねェ、搦め手でなら勝てると思ったんでしょうけどねェ」
魔将軍アビスは決して正攻法で戦うタイプではない、いうならば搦め手を得意とするタイプだ。
だが、そんな彼女を上回るのが大魔女エントラだと言えるだろう。
魔将軍アビスは勝ちを確信していた。
まさか大魔女エントラがいくら魔力が強くてもそれ以上の力で押しきれば魔力障壁は打ち破れると思っていたからだ。
だがまさかこんな方法で攻撃を回避されるとはとても思っていなかったらしい。
「でも……残念よね、アタシちゃんにこの攻撃方法を使うって事は、同じ方法でやり返されると思わなかったのかしら!」
魔将軍アビスがワープゾーンを作り、そこに瘴気で作った矢を何十本と叩き込んだ。
当然ながら矢の出口は大魔女エントラの後ろに合わせている。
コレで大魔女エントラは矢でめった刺しになるはずだった……。
「あら、人のマネなんて、芸が無いわねェ」
そう言うと大魔女エントラはニッコリと笑いながら身体を半透明に変えた。
すると当然だが、大魔女エントラ目掛けて後方から放った矢は魔将軍アビスにめった刺しになった。
「な……何なのよ! 次から次へと、何でアタシちゃんのやる事を出し抜いてくるの!!」
大魔女エントラは笑いながら魔将軍アビスを指さした。
「そりゃあねェ、アンタの思考が単純だからだねェ、怒った後の行動なんて次に何が来るかお見通しだからねェ……」
世界一の魔力の持ち主を自負している魔将軍アビスはまさかの大魔女エントラの言葉に唖然とした。
「な……この魔将軍アビスが単純だとぉ!!?? 絶対に許さない」
「ほら、今も出てるじゃない、アンタ、興奮すると一人称が保てなくなるのよねェ、アタシちゃんだったりこの魔将軍アビスだったり、それで簡単に先の行動が読めるのよねェ」
「なっ!?」
魔将軍アビスは思わず口をつぐんでしまった。
まさか自身の一人称で現在の感情が見抜かれているなんてとても思わなかったからだ。
魔将軍アビスは何も言わず、黒い魔力の球を連発した。
下手に思考すると大魔女エントラに行動を読まれてしまうからだ。
だが、そんな何の考えも無い魔力球の連発なんて一番大魔女エントラを喜ばせるだけだ。
「あら、ありがとうねェ、少し魔力減ってたから、ちょうど補充したいと思ってとこなのよねェ……」
魔将軍アビスは完全に大魔女エントラの手のうちで踊らされていた。




