905 力を奪われた黒竜王
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魔将軍アビスは勝機を確認し、その邪悪な目で黒竜王ヘックスを凝視した。
通常この魔将軍アビスの凝視は多種多様の状態異常を巻き起こす程の邪悪な魔力を秘めている。
だが、黒竜王ヘックスには何の変化も見られなかった。
それもそうだろう、黒竜王ヘックスの周りは薄い魔力障壁とも言えるものが大量に張り巡らされているのだ。
その障壁に阻まれてはいくら超絶魔力の魔将軍アビスといえど、黒竜王ヘックスに状態異常を引き起こす事は不可能だと言える。
「フン、何かやったようだが……俺様には通用しない!」
「そうみたいね、でも……アンタの弱点は分かったわ。そうなるともう、そんな偉そうな態度は取れないわね」
「何だと!? キサマ程度の魔力で俺様にダメージを与えられると思っているなら、大きな間違いだ!」
「そうよね、正攻法で行けば……勝てないわね」
魔将軍アビスは何か掴んだようだ。
その邪悪な目は黒竜王ヘックスを捉えていた。
「でも……これならどうかしらね!」
「な、何だこれは!?」
「アンタがかつて創世神に負けた理由を考えたのよ、それで辿り着いたのがこの方法ってわけ。アンタは確かに強いわ、間違いなく世界最強と言えるでしょうね。でも……その力を外部に吸い取られたら、どうなるかしら!」
「くっ、身体が動かん!!」
そう、魔将軍アビスが作った魔力結界は捕らえた相手の魔力を奪い取り、自らの力にするものだった。
魔将軍アビスの張り巡らせた結界は、彼を覆い囲み、その魔力を吸い取り始めた。
力を出そうとすればするだけ吸い取られる、つまり……この結界はクーリエ・エイータが作り上げた物と同じ魔力吸収型の結界だったのだ。
「くそぅ、まさか……俺様がこんな手段でやられるとは!」
「な、なんだ。簡単な事だったんじゃないの。コイツの魔力を吸い取ればいくらでも魔法を使い放題じゃないの」
魔将軍アビスは結界内の黒竜王ヘックス目掛け、ブラックフレアやダークヴォーテックスといった極大闇魔法を放った。
前は鱗の何重にも重なった防護障壁に防がれた攻撃だったが、魔力を吸い取られた黒竜王ヘックスの鱗はただの竜の鱗と同じになっていた。
「グガァァァアッ!」
「あら、良い声で鳴くじゃない。あの偉そうな態度はどうしたのかしら」
「キサマ……許さん、許さんぞ」
「あらあら、弱者の恨み言なんて、アンタらしくないわね。まあそれが聞けて少し気分がスッとしたけどねっキャハハハハッ!」
黒竜王ヘックスの魔力を吸い取った魔将軍アビスは全身に黒いオーラをまとっている。
今の力が漲った彼女は黒竜王ヘックスを一方的に魔法でいたぶっていた。
「ほらほらほら、この程度の攻撃大した事無かったんじゃないの? アタシちゃんの攻撃なんて効かないって偉そうな事言ってたのに、残念よねー」
魔将軍アビスは余裕を感じさせる態度で黒竜王ヘックスに魔法を叩きつけていた。。
全身ボロボロになった黒竜王ヘックスはついに自力で立っていることも出来ず、その場に倒れてしまった。
「あら、思ったよりあっけないじゃないの。もういいわ、興も冷めたし、そろそろ殺してあげる」
そう言うと魔将軍アビスは片手を掲げ、黒い瘴気の塊を集め、魔力で巨大な槍を作り上げた。
「さあ、コレでオシマイ。伝説の黒竜王って言っても、その力を奪われたら手も足も出なかったみたいね、さあ、今度こそ殺してあげるわ」
黒竜王ヘックスは黒い瘴気の槍を見上げ、何一つ身動きできない自身を嘆いていた。
「くぅ……ワタゲ、もう……会えないのか、まさか……こんな所で俺様がやられる事になるなんて」
「サヨウナラ、アンタとの戦い……つまらなかったわよ」
瘴気の槍が黒竜王ヘックス目掛け放たれた!
流石の彼も最後を覚悟したその時……。
「何諦めてるかねェ。アンタらしくないねェ!」
「お、お前は!」
瘴気の槍を空中で食い止めたのは、異空間にいないはずの大魔女エントラだった。




