903 フルパワー対フルパワー
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黒竜王ヘックスと魔将軍アビスの対決は前哨戦が終わった。
だが、双方全くダメージは受けていないようだ。
普通のレベルなら一瞬で勝負がつくどころか、戦った相手が消滅しているだろう。
この何も無い空間でフルパワーを出した双方の強さは、大国の大都市が一瞬で壊滅する程だ。
「どうやらその鱗は魔法を食い止める力があるみたいね! それじゃあこれならどうかしら!!」
「フン、俺様に傷をつけるなぞ数万年早いわ!」
魔将軍アビスは、翼を広げ、目にも見えない速さで飛び、鋭い爪を伸ばして黒竜王ヘックスに斬りかかった。
本来魔将軍アビスは魔法特化の能力を持っているが、決して肉弾戦に弱いというわけでは無い。
むしろ、彼女はその華奢な見た目と違い、油断した王を平気で首を落とすだけの強さはある。
つまり格闘においても魔将軍アビスは最強クラスだと言えるのだ。
しかもその身体能力の高さは、SSモンスターでも追いかけるのは至難の業だと言えるだろう。
ズバッ!!
その超越した身体から放たれた斬撃は大岩すらバターのように切り裂く程だ。
だが、黒竜王ヘックスは笑いながらその攻撃を避けようともせず受け止めた。
「何故なの!? この魔将軍アビスのオリハルコンすら切り裂くネイルが……通用しないなんて!」
「フン、その程度の斬撃、ユカ達の攻撃に比べればまるで子供に斬られたようなものだ!」
「バカにするなァ! この……魔将軍アビスがあんな人間のガキ以下だというのかっ!?」
どうやら魔将軍アビスはメンタル的には煽りに弱いらしい。
黒竜王ヘックスがユカ達と比較した事が相当腹立たしいようだ。
「もうヤメたわ。アンタを屈服させてこの魔将軍アビスの下僕にしてあげようと思ったけど……どうもそう簡単に行きそうにないみたいだから、全力で殺してあげるわ!」
「フン、今までが全力で無かったというのは負け惜しみではないのか?」
「決めたわ、もう手加減は無しよ。この異空間がアンタの墓場だと思いなさいっ!」
魔将軍アビスはそう言うと、伸ばしたネイルの先端にどす黒い瘴気を集め、漆黒の剣を作り出した。
「これはアビスソード、混沌の闇を集めて造り上げた刃よ。この剣でアナタを葬ってあげるわ!」
「フン、そんな曲芸で俺様を倒せると思っているのか!」
「そんな事を言っていられるのも今のうちよ!!」
――グサッ!!――
魔将軍アビスの漆黒の邪剣は黒竜王ヘックスの腹部を貫いた……! はずだった。
だが……深く刺さったはずの剣は、その刀身が砕け散っている。
「な、何なのよ。この魔将軍アビスの剣が……通用しないといううの!?」
「面白い曲芸だったが、その程度の剣で俺様の体に傷を付けられると思っているのか!」
どうやら黒竜王ヘックスの腹部はオリハルコンよりも硬いらしい。
ユカ達がヘックスにダメージを与えられたのは、まだ彼が寝起きでその身体を全盛期と同じになるまでオーラで硬化していなかったからだと言える。
つまり、今のオーラで身体を硬化した状態は、ユカ達ですらダメージを与えられない程だ。
だからいくら魔将軍アビスと言えど、彼にダメージを与える事が出来なかった。
「信じられないわね、まさか伝説の黒竜王ヘックスがこれほどのバケモノだったなんて」
「フン、褒めても手加減はせぬぞ。キサマは俺様を怒らせたのだ。その魂すら消滅させてやる!」
そう言うと黒竜王ヘックスは大きく息を吸い込んだ。
これは伝説に残る大陸すら吹き飛ばしたというアルティメットブラックブレスを吐き出す前段階だ。
黒竜王ヘックスの黒く光り輝くこのブレスは数万の大軍を一瞬で消滅させた力だ。
「喰らえ! 魂すら消し飛ぶがいい!!」
「な、何よコレはァア!?」
シュゴオオオオオオォォォオンッッ!!
黒竜王ヘックスから放たれた黒く光り輝くブレスは魔将軍アビスを一瞬で包み込んだ。




