89 奴隷売買の証拠を探せ!!
「お前は……!」
「やぁ、こんにちはァ」
コイツはクーリエの神殿を一瞬で崩壊させた謎の人物だ。
「早速で何だけど、キミたちにそれを持って行かれては困るんだよねェ」
「何だと!?」
そう言うと薄闇色のローブの男はパチンと指を鳴らした。
すると……! ホームのまとめて持っていた証文の束が音を立ててパチパチと燃え出した!!
「アチチッ! 熱い!」
「いきなり何ですの!?」
ホームは持っていた証文の束を地面に落としてしまった!
「しまったっ!」
私達の見ている前で証文は全て灰になってしまった。
「さて、今回はこれで用が済んだからボクは帰るよ……」
「待てッ! お前は誰だ!?」
「さあねェ、まあまたいずれ会う事もあるだろうよォ」
コイツとはもう会いたくないものだ。
飄々とした態度をしているが、コイツは相当強い……今の私でもコイツには勝てる気がしない。
「あ、そうそう……キミたちにはお礼を言っておかないとねェ!」
「お礼だと!?」
「よくもまあアジトを消してくれたねェ! アイツにはせっかく魂喰らいを与えたのにこれでパアだよ! この礼はいずれさせてもらうよォ!!」
「お前がッ!! お前がアジトを焚きつけたのか!?」
ただの盗賊に過ぎなかったアジトが不死身の男になったのはコイツが力を与えたからだと見て間違いないだろう。
「まあそう取ってくれてもいいよォ。邪神の復活の為にはまだ方法はあるからねェ!」
「邪神の復活だと!?」
「キミたちには知らなくていい事もあるんだよォ」
コイツの態度はいちいち鼻につく……しかしなぜか他人のような気がしない。
「でもこれ以上キミたちに教えてあげる義理は無いよォ、だからボクはもう帰るねェ」
そう言うと彼は私の作ったまま置いておいた底無し沼に消えた。
奴の事だ、底無し沼に沈んだように見せてどこか別の場所に移動するスキルがあったのだろう。
「ユカ様、残念ですが彼のせいで証文は全て灰になってしまいました……」
「あの男……一体どんな魔法を使ったの? 私が魔力を感知できませんでしたわ」
「……悲しい人……」
みんながあの薄闇色のローブの男について分からないことずくめだった。
その上、証拠になる奴隷商人との取引の証拠書類や証文は全てが灰になってしまい、ヘクタールが黒幕という証拠は焼失してしまった。
「残念です……」
「私が氷の魔法を使うタイミングすらありませんでしたわ……」
証拠が無くなった事で困っていた私達にマイルさんが声をかけてきた。
「みんな、落ち込んでも仕方ないわよ。そうだ、美味しい木の実でも食べて気分を落ち着けましょう」
「マイルさん……みんな今はそれどころでは」
「そうですわ、少しは空気読んでくれますかしら」
「……すみません」
みんながガッカリしている状況だったのでマイルさんには悪い事したかなと思う。
「そうね、ちょっと場が悪かったね。あーしが悪かったわ、ハハハ……」
そう言うとマイルさんは再び木の実を紙に包み、しまおうとしていた。
「!! マイルさん! その包み紙を見せてください!」
「え? ユカ? これその辺にあっただけなんだけど」
私は木の実を無造作に置くとその包み紙に使っていたくしゃくしゃの紙を広げてみた。
「これは……さっき見たドークツのサインじゃないか?」
「ユカさん、こっちにはソークツのモノと思える大きな親指のインクもあります!」
何枚かの紙は破れていたがそれを繋ぎ合わせると……マイルさんの木の実を包んだ包み紙は奴隷売買の契約書だったとわかった!
「後はヘクタールのサインさえあれば……」
「ユカ様! ここにヘクタールのサインがありました!! これで全部証拠になります!」
マイルさんのおかげで、私達は焼失してしまったはずのヘクタールの奴隷売買の証拠を手に入れる事が出来た。