899 黒竜王を襲う睡魔
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流石の世界の脅威とまで言われた黒竜王でも睡魔には勝てなかったようだ。
「ま、まさか……この状況で睡魔に襲われるなんてねェ、仕方ない……さっさと目を覚ますんだねェ! リフレッシュ」
状態異常解除の魔法を大魔女エントラがかけた。
すると、身体が傾きかけていた黒竜王ヘックスはどうにか眠気から目を覚ましたようだが、それでも本調子ではないようだ。
「う……うーむ、この眠さ、流石にこれには耐えきれるのだろうか……」
「な、何なのよ。わたし達を驚かせるなんて……黒竜王ヘックスなんて言っても所詮見掛け倒しじゃない、お姉様の闇の力を手に入れたわたし達ならいくら黒竜王ヘックスが相手でも、本調子で無きゃ負ける気はしないわ!」
ダークリッチのアナが杖を掲げ、黒い炎の塊を放った。
「ダークネスフレアッ! さあ、骨まで燃え尽きてしまいなさいよ!」
ダークリッチの闇魔法でも最上位に入るのがこのダークネスフレアだ。
この力は黒い魔力を空中で原子爆発起こさせる事で相手の内部から爆発させる大魔法、これを受ければ大抵の敵は灰燼に帰す大魔法だと言える。
普段ならこの程度の魔法攻撃、平気で避ける事の出来る黒竜王ヘックスだが……彼はあまりの眠さに身体がまともに動かなかった。
だが、ダークリッチであるアナの放ったダークネスフレアは黒竜王ヘックスの鱗を少し焦がす程度のものだった。
SSクラスのモンスターの力でも神に等しい黒竜王にはダメージを与える事すら厳しいらしい。
「クゥッ……まさか、この程度の攻撃が避けられないとは……」
どうやら黒竜王ヘックスの睡魔は神々の力をも上回る最大の弱点だと言えるのだろう。
さらに今の彼は眠りについていた頃の時間に戻されているので弱体化はしていないものの、大魔女エントラの状態異常回復すら受け付けない程だ。
「くそぅ……このまま寝てしまっては、ワタゲを……アイツらに……奪われ……」
黒竜王ヘックスは睡魔に勝てず、その場に倒れてしまった。
そう、世界最強の黒竜王の最大の弱点は何者にも勝る睡魔だったのだ。
そして、黒竜王ヘックスは眠りについてしまった。
「クロちゃん、クロちゃぁああん!!」
アナに捕まったワタゲが叫んでいる。
しかし、それでも黒竜王ヘックスは起きる気配が無い。
その様子を見ていたダークリッチのアナはその邪悪な目に怪しい光を宿らせた。
――そうだわ、この黒竜王ヘックスが大事に思っていた娘、コイツを魔族にして従えてしまえば、あの黒竜王ヘックスをわたしの下僕にできるわね。――
そう、ダークリッチのアナはワタゲを奪い、彼女を魔族化する事にしたのだ。
ダークリッチ・アナは無力なワタゲを捕らえ、邪悪な瞳で凝視した。
「ア……アァ……」
動けなくなったワタゲ、その彼女の血を吸い、魔族化しようとアナが牙を突き立てる!
黒竜王ヘックスはまさか大切な存在である彼女がそんな目に遭っているとは知らず、眠ったままだ。
このままではワタゲが魔族化されてしまう、だがその企みを阻止したのは……大魔女エントラだった。
「そうはさせないからねェ! グラビィティフィールド!」
「な、何なのよ! この魔法はっ!?」
大魔女エントラは重力球を作り出し、一気に自分の元にアナごとワタゲを引き寄せた。
「でもアンタはいらないからねェ!!」
「ギャフゥッ!!」
大魔女エントラは吸い寄せられたアナを思いっきり魔法で吹き飛ばした。
そして、手元にアナを抱き寄せると、マントの内側に彼女を覆い包み込んだ。
「アンタ、いつまで寝ているかねェ。仕方ないねェ、ちょっと荒療治だけど、一気に起こしてあげるかねェ!」
そう言うと大魔女エントラは手元の杖を掲げ、アトミックフレアの魔法を放った。
「ちょっと手荒なくらいじゃないとこのバカは目を覚まさないからねェ!!」
「キャアァッ!! クロちゃぁああん!!」
ワタゲは大魔女エントラが黒竜王ヘックスに極大攻撃魔法を放ったのを見て、悲痛な叫びをあげていた。




