897 時を戻す邪法
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魔将軍アビスの眷属であるアナ、ブーコの二人は……目の前にいるのがかつて自分達に煮湯を飲ませたユカの仲間だとようやく気がついたようだ。
「ま、まさかお前達は……バカなっ! なぜこんなところにいるのよ!?」
どうやら偽巫女になりすましていた魔将軍アビスの眷属である三人は、自分達の前にいるのが這う這うの体で逃げ帰る事になってしまった原因である最強の大魔女や龍神だとようやくわかったらしい。
「そんな……お姉様にここを任せられているのに、何でコイツらがここに? これだけ離れた国なら容易く乗っ取れるはずだったのに、来るのが速すぎるわ!!」
魔将軍アビスの眷属である三人、ダークリッチのアナ、バンパイアロードのブーコ、ビーストマスターのトゥルー、どれもSSクラスの怪物だ。
彼女達の誰か一人がいるだけで小国や大都市くらいなら壊滅させる事が出来る。
だが魔将軍アビスは念の為にザッハーク神国の総本山の完全な乗っ取りを完遂させる為、あえて三人全員を自らの妹と称し、巫女として総本山に潜り込ませたのだ。
優秀な三人の魔族は瞬く間に高レベルのプリーストすらアンデッド化、下僕化してしまい、ザッハーク神教は地方の一部を除き、完全に魔将軍アビスの手に落ちたのだ。
乗っ取られた宗教の中で姫巫女と呼ばれているのがこのアナ、ブーコ、トゥルーの三人だった。
彼女達に違和感を持つ者もいたが、そのような者達は真っ先にこの三人の餌食となり、血肉や、またはアンデッドになっていた。
そして完全に乗っ取りを完成させた彼女達は更なる高レベルの僕を作る為、各地に御触れを出し、巫女の見習いとなる少女達を集めだしたのだ。
その中の一人がワタゲだったと言える。
巫女としてザッハーク神教の総本山に集められた少女達は次々と魔将軍アビスやその眷属である三人によって血や命を奪われ、物言わぬ僕として更なる犠牲者を増やしていった。
――今やザッハーク神教はその本来の宗教としての姿を失い、魔将軍アビスの所有物になりさがっていた。
その中で姫巫女となった三人は好きに振る舞っていたのだが、そこにユカの仲間である大魔女エントラ、龍神イオリ達が姿を見せたのだ。
「さあ、もう姿を隠してもバレバレだからねェ、さっさと姿を見せるんだねェ!」
「そうじゃ、ワシにアレだけ徹底的に懲らしめられてまだ懲りぬようじゃな、今度はもう二度と逆らおうという気が起きないように徹底して折檻してやろうか?」
大魔女エントラと龍神イオリ、SSSクラスとも言えるこの二人がダークリッチのアナ、バンパイアロードのブーコに忠告をした。
レベル差で言えば大魔女エントラ、龍神イオリの強さはこのダークリッチやバンパイアロードを遥かに上回る。
だが、彼女達は流石に前回にも同じような強さで戦いを挑み圧倒的に負けた事があったので正攻法で戦おうとはしなかった。
「おっと、下手に手を出せば……この少女の命は無いわよ」
「フフフ、さあ、美味しそうな処女の生き血、アタシが吸い尽くすまでそこでじっと見ているといいわ!」
「くっ! この卑怯者が……」
どうやらアナとブーコは巫女見習いとして連れて来られたワタゲを人質にする事で大魔女エントラや龍神イオリを戦えないようにけん制したようだ。
だが、そんな中でワタゲ目指して飛び掛かったのはヘックスだった。
「ッ貴様ら! 俺様のワタゲを返せ!!」
「何よ、あの小さなドラゴン。Sクラス程度でわたし達に逆らおうというの? そうね、それじゃあ相手してあげるわよ」
そう言って笑うとダークリッチのアナは黒竜のヘックスに魔法を仕掛けた。
「この魔法は時を戻す魔法、アンタの時を戻して無力にしてあげるわ! 生まれたばかりの姿になって何も出来ずに踏みにじられなさいよ」
――だが、この魔法は魔法を放ったダークリッチのアナ、彼女達にとって誤算とも言えるものだった。
なんと、魔法を喰らい小さく無力な姿になるはずだったヘックスは……本来の力を取り戻す事が出来たのだ!
「礼を言うぞ……まさか再びこの姿に戻る事が出来るとはな!!」




