896 見くびられた大魔女と龍神
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ダークリッチ。
常人にとっては桁外れの魔力を持つ怪物だ。
その絶大な魔力は他者を凌駕し、普通の魔法ですら常人の全力を遥かに上回る威力を発揮する。
ダークリッチに遭遇する事はその死を意味するレベルだ。
その強さはSSクラス。
普通の冒険者では逃げる事も戦う事も出来ず、屍となりその手下にされてしまうだけだろう……。
しかもザッハーク神教の総本山に現れたダークリッチのアナ、彼女は魔将軍であるアビスの眷属だ。
SSSクラスを遥かに上回る邪神クラスの怪物である魔将軍アビスの寵愛を受ける彼女は通常のダークリッチすらをも上回る正真正銘の怪物と言える。
下手すれば彼女一人がいれば大都市どころか小国が滅びるレベルだ。
ダークリッチが魔法を使えば天変地異が起きる。
それほどまでに圧倒的な魔力を持っているのだ。
そのダークリッチによって作られた巨大なフレッシュゴーレム、この怪物は術者の魔力の大きさで強さが変わる。
ダークリッチであるアナの作ったフレッシュゴーレムは、SSクラスの怪物だ。
さらに自己再生能力まで持っているので、レベル40超えの伝説級の冒険者ですら相手にならない。
つまりは歩く災厄レベルの怪物だ。
だが、そのダークリッチであるアナが狼狽えている。
つまり……アナが対峙している相手は、絶大な魔力を持つ彼女を上回る存在だと言えるのだ。
「し……信じられない……」
「おやおや、アンタは自分の魔力が世界一だとでも思っていたのかねェ、この程度の魔力の呪いで妾にダメージを与えられると思っていたのかねェ!」
「そ、そんな……バカな」
ダークリッチのアナがありえないといった表情をしている。
「所詮元人間、いくらアビスの邪悪な力で魔力を手に入れたとしても……アポカリプス一族である妾に敵うわけが無いからねェ」
「バ、バカな……信じられない」
いくらダークリッチのアナが絶大な魔力を持っているとしても、大魔女と呼ばれるエントラの魔力には敵わない。
「ふむ。女狐はワシの事も見くびっておるようじゃな。ワシもここにおるのじゃがな」
龍神イオリは本当の姿である龍ではなく少女の修験者のような姿をしている。
見ただけではどう見ても彼女がそれほどの実力者に見えないのだろう。
だが、その圧倒的な魔力は、気付くものには間違いなく気付くのだが、アナは龍神イオリの事を見もしていなかった。
――いや、大魔女エントラの事に気を取られ、龍神イオリに気が付かなかったと言えるだろう。
「な、何なのよ……この圧倒的な魔力は」
「ほう、ようやく気が付いたようじゃのう。ワシの力に気が付かぬとは、所詮その程度か……」
「な、何なのよ、アンタ達は……お姉様とわたし達の邪魔をしようというの!!」
アナの邪悪な闇魔法が放たれた。
辺りを巻き込んだ闇は全てを闇に呑み込み、大魔女エントラと龍神イオリを覆った。
本来ならこれで闇に包まれた者は手出しも出来ず、力を奪われて呪われた挙句に死ぬ。
……だが、大魔女エントラも龍神イオリも微動だにせず、闇をかき消した。
二人共、圧倒的な魔力で闇を吹き飛ばしたのだ。
「のう、えんとらよ。この身の程知らずの小娘……ワシがやってもいいか?」
「どうもそうはいかないみたいだねェ、他にも仲間がいるみたいよ」
「そうか、それではその小娘はおぬしに任せるわい」
どうやらアナの仲間が姿を見せたようだ。
「アナ、何やってるのよ。アンタ自信ありげに侵入者を殺すって言ってたじゃないの」
「ブーコ、アンタ……アイツら相手にそう言えるの!?」
「何そんなに狼狽えてるのよ、侵入者の雑魚くらいアンタ一人で倒せるんじゃなかったの? ……って、まさか!」
「ほう、おぬしは覚えておったようじゃな。久しぶりじゃのう……」
ダークリッチのアナとバンパイアロードのブーコは、ようやく自分達が相手をしているのが、かつて煮え湯を飲まされた相手だった事にようやく気が付いたようだ。




