895 姿の見えない術者
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何者かに寄せ集められた死体は一つの巨大な塊となり、それは超巨大なフレッシュゴーレムに姿を変えた。
フレッシュゴーレムの強さは術者の強さに比例する。
このフレッシュゴーレムは常人の冒険者では決して勝つ事の出来ないSS級のモンスターだ。
つまり、これだけ高レベルのモンスターを生み出せる術者は、その本人があり得ないほどの強さだともいえるだろう。
「この邪悪な魔力、どうも以前に感じた覚えがあるねェ!」
「うむ、ワシもじゃ。これはあの女狐共が関係しておるやもしれんな」
大魔女エントラと龍神イオリはこのフレッシュゴーレムを作った術者の魔力に覚えがあるようだ。
彼女達は今ここのザッハーク神教の総本山を乗っ取った連中が間違いなく自分達の想定している連中だと確信している。
「やはりそうだろうねェ、この邪悪な魔力……これは間違いなく王都近くのアンデッド達を倒した時に感じたものと同じだねェ」
「そうじゃな、魔将軍あびすとその眷属どもじゃろうな!」
龍神イオリは魔将軍アビスがこの宗教国家の総本山を乗っ取ったとわかっていた。
「さて、この死体人形、どう片付けてやろうかのう」
「アンタの好きにすればいいんじゃないかねェ」
「好きにと言ってものう、まあそれでは軽く蹴散らしてやろうかの」
龍神イオリは素早く跳躍をすると、フレッシュゴーレムを構築している死体の結合部を蹴り飛ばした。
すると何体もの死体が吹き飛ばされたが、その直後に再びパーツが寄せ集められ、同じ形を再生させている。
「どうやらこの木偶人形を砕いても大元を倒さぬ限りはキリが無さそうじゃな!」
「どうやらそうみたいだねェ!」
フレッシュゴーレムは焼いても砕いてもパーツを増やしながら再生し、何度でも復活する。
大魔女エントラや龍神イオリがこの程度の敵に負けるわけはないが、それでも何度も復活する怪物に二人は辟易していた。
「全くいつまでたってもイタチごっこじゃな、術者を倒さぬ限りは続きそうじゃ」
「全くキリがないわねェ、まあどこに悪さしているのがいるかは見当ついてるけどねェ!」
大魔女エントラはそう言うと、何もない空に向かって魔法を放った。
すると、そこには姿を消していたはずの何者かがいて、思いがけない魔法に思わず姿を見せてしまった。
「しまった!」
「やはりアビスの手下だったみたいだねェ、うまく化けたみたいだけど、お見通しだねェ!」
その場に姿を見せてしまったのは、魔将軍アビスの眷属であるアナだった。
彼女は姿を隠しながら魔力を使い、死体をかき集めて巨大なフレッシュゴーレムを作り上げたのだ。
しかしアナは魔力を感じさせないように隠蔽する方法を知らないのか、大魔女エントラが隠蔽したはずの魔力ですら認識出来るほどの力があったのかはわからないが、大魔女エントラの前には魔力や姿を消してもお見通しだった。
これが年季によるものなのか天性の才能の違いなのかはわからないが、アナと大魔女エントラの力の差は歴然だ。
姿を見破られたダークリッチのアナは悔しがっている。
「くそぅ、またあのババアかっ! いつもいつもお姉様とわたし達の邪魔ばかりしやがって、許さない……わたしの魔力で呪い殺してやる!」
ダークリッチであるアナの絶大な魔力は相手を確実に呪い殺し、その魂を永遠に従属させるだけの力がある。
だが、大魔女エントラや龍神イオリの魔力は神にも匹敵する程、SS級の魔族であるアナの魔力では屈服、服従させる事は到底不可能だ。
「呪ってやる……死ね、死ねぇ!!」
しかし、アナの呪いはそれを遥かに上回る魔力の持ち主である大魔女エントラや龍神イオリにはまるで効果が見えなかった。
「あら、何かしたのかしらねェ」
「な、何故なの……アタシの呪いが通じないなんて……」
「その程度の魔力で妾に勝てると思ったのかねェ、それじゃあ本当の大魔女の力、見せてあげようかねェ」
大魔女エントラがアナに向けて高く杖を掲げた。




