894 アンデッドを蹴散らせ!
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ヘックスを助けたのは大魔女エントラと竜神イオリだった。
今のヘックスは世界最強の黒竜王と呼ばれた彼の本来の強さの一万分の一程度に過ぎない。
それでもS級モンスターに相当するので通常のモンスター程度なら相手にもならないはず……。
だが、このザッハーク神教の総本山にいるアンデッド達は明らかにレベルが違う。
本来リビングデッドやゾンビ、グール、ワイトといったアンデッドモンスターは強くてもB級くらいまでだ。
だが、明らかにこの山にいるアンデッドの強さはA級、いや、下手すればS級だと言えるだろう。
それだけ魔将軍アビスとその眷属の魔力がケタ違いだと言える。
アンデッドの強さはその殺された相手の強さに比例するともいえる。
つまり、魔将軍アビス、ダークリッチ・アナ、バンパイアロード・ブーコ、ビーストマスター・トゥルーに殺された犠牲者はその邪悪で膨大な魔力を体に受ける事により、本来のゾンビやグールの強さであるC級、B級にはならず、下手すればリッチやスケルトンナイトに匹敵するA級の強さで復活しているのだ。
流石にいくらヘックスがS級モンスターの強さだとしても、S級、A級の大量のモンスターが相手だと勝ち目は無い。
だからこれはヘックスが弱かったとというよりは、相手のアンデッドの群れの方が強すぎた。
幸い噛まれたり引っかかれたりしてもヘックスは毒耐性や呪い耐性を持っている、だから彼はアンデッド化せず、ドラゴンゾンビにならなかった。
しかし大量のアンデッドに押しつぶされ、翼の被膜がボロボロになったヘックスはこれ以上戦うことは出来そうにない。
彼はその場で気を失い、シートとシーツの聖狼族の双子に助けられその背中に背負われていた。
「ヘックス、よく頑張ったねェ、ここからは妾が引き受けるからねェ、さあ、ゆっくりと休むんだね」
「うむ、あの大タワケがこれほどに気概を見せるとはのう、よかろう。ワシが後の始末はしてやろう!」
大魔女エントラと龍神イオリ、この二人がアンデッドの群れを睨みつけた。
「元が人間だって言っても容赦しないからねェ! どうせもう元には戻れないんだから、全部消滅させてあげるからねェ! ファイヤーウォール!」
「唸れ稲妻よ、この愚か者どもを打ち砕くのじゃ!」
大魔女エントラと龍神イオリの魔法が荒れ狂う!
炎の壁と荒れ狂う稲妻が高レベルのアンデッドを一瞬で吹き飛ばした。
二人とも流石はSSSクラスの強さだ。
Sクラスで瀕死になっていたヘックスとは比べ物にならない魔力の二人はアンデッドの群れを蹴散らし、増援もろとも打ち砕いた。
二人の魔法が荒れ狂った後には大きな魔法に削り取られた山肌と魔力の残滓らしきものが見られた。
アンデッドの群れは壊滅し、増援も全て吹き飛ばされ、残っているのは大魔女エントラ達だけだ。
剥き出しになった山肌には草一つ生えず、そこからは巡礼の隊列が見えている。
「さて、あの子を助けてあげるとするかねェ!」
大魔女エントラは杖を掲げると、その場にいた全員を空中に浮き上げ、そのままワタゲの輿のある場所に移動した。
「神ニ逆ラウ愚カ者ドモニ死ヲ!」
ワタゲを担ぎ上げていた隊列がその場に立ちつくし、一人、また一人と覆い被さった。
すると、そこに出来上がったのは多くのアンデッドを集めて作られたフレッシュゴーレムだった。
「あらあら、随分と悪趣味な人形だねェ」
「油断をするでないぞ。コヤツら、かなりの邪悪な魔力を感じるわい」
アンデッドの死体を寄せ集めた悪趣味な巨体が大魔女エントラと龍神イオリに襲いかかった!
「さて、身の程知らずのおバカさん達に格の違いってものを見せてやろうかねェ!」
「えんとら、ワタゲはワシが助け出した。思う存分やってやるんじゃな!」
「さて、それじゃあキツいヤツブチかましてあげるかねェ!!」
大魔女エントラが高く杖を掲げた。




