891 邪の巣食う山
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大魔女エントラ達はザッハーク神教の総本山の控室で大量に押し寄せるアンデッドの群れに囲まれた。
「こうも大量にいると流石に鬱陶しいねェ!」
「そうじゃな、まるで羽虫のようじゃ!」
大魔女エントラと龍神イオリ、この二人にかかれば低レベルのアンデッドなど敵ではない。
少しなぎ払っただけでアンデッドは粉々になって砕けた。
「バリアフィールド! そこから一歩も動いたらダメだからねェ!!」
ワタゲの家族は大魔女エントラの作ったバリアフィールドに守られた。
「まったくよー、いくら何でも数が多くねえかー?」
「ボヤかないボヤかない。この程度なら十分撃退できるでしょ」
「グルルゥルルウ! ガウゥ!」
カイリ、マイル、シートとシーツの双子もアンデッド相手に戦っている。
この控室にはもう既に人間と呼べるのは大魔女エントラの仲間とワタゲの家族だけしかいない。
後は全て魔将軍アビスの手下にされてしまったアンデッドばかりだ。
「まったく、やってられないねェ!」
「エリア嬢がおれば浄化でコイツらを全部消す事も出来るんじゃがのう」
「いないのをどうこう言っても仕方ないねェ! とにかくここを切り抜けないとねェ」
アンデッドはどんどん押し寄せてくる。
頭を潰しても身体がちぎられても再生し、そのまま迫ってくるのだ。
コレがアンデッドの恐ろしさだともいえるだろう、だから高レベルの冒険者でも大量のアンデッド相手には押し切られて負けてしまうのはこれが理由だと言える。
「こうなったら骨までも燃やし尽くしてやろうかねェ! どうせ人間には戻れないんだから」
「そうじゃのう、ワシも少し本気を出すとするか!」
大魔女エントラと龍神イオリが炎と雷を巻き起こした。
「妾はこちらをやるから、アンタはそちらを頼むねェ」
「わかった、ヘマをするでないぞ」
「それ、誰に言ってるのかねェ。そんな事あるわけないじゃない」
二人の魔法は控室の壁を吹き飛ばし、押し寄せるアンデッドの群れを一瞬で消滅させた。
「もうここはダメだねェ、誰一人として生き残りはいなそうだからねェ」
「あ、あの……貴女がたは一体何なのですか??」
ワタゲの家族は突然の状況を全く受け入れる事が出来ないようだ。
まあそれもそうだろう、聖地巡礼に来たはずが、いきなり大量のアンデッドに襲われた挙句、そのアンデッドを圧倒的な力で打ち倒す冒険者を見たわけだから。
「妾達はこの国に来た旅人ってとこかねェ、まあ……目的があってここに来たんだけどねェ」
「目的、それは一体何なのですか?」
「残念だけど今はまだ言えないねェ、アンタ達はそこから出たら駄目だからねェ、問題が解決するまでは、そこにいるんだねェ」
大魔女エントラ達はワタゲの家族ににっこりと微笑むと、再び押し寄せるアンデッドの群れとの戦闘を再開した。
「こんな程度の数とレベルで勝てると思っているなんて、ずいぶんとなめられたものだわねェ」
「全くじゃ、ワシらを相手にするならこの倍以上は用意しろと言いたいわい」
大魔女エントラと竜神イオリの二人は顔色を変える事もなく淡々と押し寄せるアンデッドの群れを蹴散らした。
その圧倒的な強さにワタゲの家族達は指をくわえてみているしか出来ないようだ。
「おや、そういえば先ほどからクロスケの姿が見えないねェ、いったいどこに行ったのかねェ」
「ワシは知らんぞ、まあどうせワタゲを探して先に向かったんじゃろうな」
「この山にどんな罠があるかもわからないのに、相変わらず短絡的なおバカよねェ」
「全くじゃ、どこにどんな落とし穴があるかわからんのに」
大魔女エントラ達は押し寄せる数千を超えるアンデッドを蹴散らし、控室の周囲はようやく落ち着いたようだ。
「さて、それじゃあそろそろ山の方に向かおうかねェ」
「うむ、食事はその後じゃな、とりあえずはあの愚か者をねじ伏せてやらんといかんからな」
大魔女エントラ達はワタゲの家族をバリアフィールドの中に残し、ザッハーク神教の総本山の山門をくぐった。




