88 おおかみこどものシートとシーツ
成り行き上、私が双子の狼の名前を考える事になってしまった。
確かに“ドラゴンズ・スターⅤ”の獣王ボロンゴの名前の候補を選ぶシナリオは作ったがあの酔っぱらって考えたような名前の羅列はいかがなものかと。
『チャッピー』『ギコギコ』『ボナンザ』『スカルチノフ』仕事に行き詰まって居酒屋で適当な名前を書いたらシナリオにそのまま使われてしまったものだ。
「ボクが……ですか?」
「はい! 貴方はあの銀狼王様に認められた方です。その方が付けた名前なら誰もが納得します!」
「アニスさん……銀狼王ってそんなに有名……なの?」
「え? 銀狼王様は森の守り神、私達の村では銀狼王様の祭りをしておりましたわ」
ロボはこの辺りでは土地神様のような扱いをされていたらしい。
まああの強さなら納得ではある。
「わかりました……ボクが名前を付けます」
「ユカ様、お願いします」
まあ考えてみて……銀狼王の名前がロボ、その妻の名前がブランカである。
これはシートン動物記の『狼王ロボ』の名前そのままともいえる。
それから考えると……シートンというのも安直かもしれないけど……この世界の人は知らないだろうからそのまま使えるかな。
「シート…ン」
「ユカ様、もう一度お名前を」
「シート…」
「シートですね! 力強くていい名前です!」
有耶無耶の内に一匹の名前が決まってしまった。せっかく兄妹なら統一感のある名前がいいのかな。
「もう一匹は……シー……ッ」
思いつかなかった! シーまでは言ったもののその後 『シータ』『シーナ』『シール』『シーマ』 シーのつく名前を言う前に言葉が詰まってしまったのだ!
「シーツですねっ! 女の子らしくて可愛らしい名前だと思います」
「えっ?……えぇっ??」
もう名前が決まってしまったような雰囲気だ。
「皆さん、この双子の名前は、『シート』くんと『シーツ』ちゃんに決まりました!」
みんなが割れるような拍手で名前の決まった双子の狼を祝福している。
まさかまだ名前決まってないとはとても言える雰囲気ではなかった。
そして、この双子の名前は『シート』と『シーツ』に決まった。
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……『銀の獣王シート』、最も美しい『白狼シーツ』後の世で救世主と共に旅をした誇り高き獣王『シート』とその妹の最も美しい獣と呼ばれた『シーツ』が歴史に名前を刻まれた瞬間だった。
だがそれは後の世の人々の語る遥かなる伝説である……。
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◇
私達は盗賊の住処に戻り、奴らが強奪した宝物を全て手に入れた。
これは盗賊に奪われた物であり、本来はゴーティ伯爵領の財産である。
これらを全てゴーティ伯爵の城に持ち帰る事により、奪われた人達に返還しようという事なのである。
「うーん、ユカー、木の実の包み紙無いから適当に何枚かその辺の紙使うよー」
「マイルさん、良いですよー」
「ユカ様! 凄い物を見つけてしまいました!」
「ホーム、凄い物って何かな?」
ホームが見つけたのは奴隷の売買密約の契約書だった。
それには大半にドークツのサインが書かれていた、たまに見つかるのは巨大な親指にインクを付けたソークツの拇印だった。
アジトの名前は見つからなかった、どうせ仕事は部下に丸投げのブラック上司そのものだったのだろう。
「この名前を見て下さい!」
奴隷の売買契約書の相手の名前には……ヘクタールの名前が記入されていたのだ!
「これです! これはれっきとした証拠になります」
「そうだね、これら全部の書類を集めるんだ!」
私達は奪われた財産以外にも奴隷契約書や盗品の受渡し書を大量に集める事が出来た。
「これでヘクタールのやつも言い逃れ出来ない! これを父上に渡す事が出来れば」
そうできれば確実にヘクタールを追い詰める事が可能だ。しかし私は嫌な予感がした。
「困るんだよねェ……それを持って行かれるとォ」
! この声は……。クーリエの神殿に現れた薄闇色のフードの男の声だ!
「お前か!?」
「やあ、また会ったねェ……」