886 暗躍する悪意
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ザッハーク神教の総本山に近づくにつれ、モンスターのレベルは跳ね上がっている。
その強さはおそらく常人ではいっぱしの冒険者を名乗るベテランですらあっという間に殺される程だ。
また、死んだが最後……死体を何者かに操られ、A級モンスターにされてしまう。
だからさらに強くなったアンデッドの軍団がさらに多くの犠牲者を増やすという悪循環だ。
モンスターの群れは大魔女エントラ達の乗る乗合馬車に押し寄せて来ている。
彼女達はこの異変の裏に何がいるのかを把握しているようだ。
「まったく、あの、性悪女……またこの国でも同じような事をやっているみたいだねェ!」
「そうじゃのう。このひしひしと感じるどす黒い瘴気、これは間違いなくあの女のものじゃろうな」
大魔女エントラと龍神イオリはひっきりなしに押し寄せるアンデッドの群れを追い払っていた。
「こんな時にエリアちゃんがいてくれたら、コイツら一瞬で消し去れるんだけどねェ」
「言うでない。アヤツの事じゃ、何処で聞き耳を立てておるかわからんからな」
彼女達のいう人物とは間違いなくあの魔将軍の一人だろう。
——魔将軍アビス——
魔将軍四天王の一人でアンデッドを作り、奴隷にする能力に長けた最高位の魔族だ。
その取り巻きの三人の女魔族も通常レベルでは太刀打ちできない相手だと言える。
ダークリッチのアナ。
バンパイアロードのブーコ。
ビーストマスターのトゥルー。
彼女達はアビスの眷属であり、アビスが死なない限りはいつまでも再生復活するSSクラスの上位魔族だ。
大魔女エントラと龍神イオリが感じた悪意はこの者達の気配だったのだろう。
この魔族達が暗躍しているという事は、もうすでにザッハーク神教の総本山は彼女らの手に落ちていると考えた方が良いだろう。
「こ、怖いよ……クロちゃん……」
「ワタゲ、俺様に任せろ。お前は俺様が絶対に守り抜いてやる!!」
ヘックスは口から吐いたブレスでアンデッドを焼き払った。
流石はブラックドラゴンというべきか、A級モンスターのナイトスケルトンやグレーターグール、バンパイアレディといったモンスターをヘックスはことごとく焼き砕いた。
「ガオォォォーーーンッ!!」
聖狼族のシートとシーツは押し寄せるモンスターを次々と切り裂き、噛み砕き、打ち倒した。
また、フロアとサラサ、カイリとマイルという世界最強クラスの冒険者全員が乗っている乗り合い馬車は世界最強とも言えるだろう。
この馬車に乗っていたワタゲの家族や総本山に向かう客は止まった馬車の中で大量のアンデッドを冒険者達が打ち倒すのを家族や乗客全員で小さく縮こまって待つだけだった。
「まったく、これじゃあキリがないねェ!」
「そうじゃな、エントラ、この街道の向こうには誰もおらんようじゃな」
「それじゃあ一気に吹き飛ばすとするかねェ!」
「ワシも本気を出させてもらうぞ」
杖を掲げた大魔女エントラは空に舞い上がり、龍神イオリは紫のドラゴンの姿に戻った。
「さぁ、邪魔する奴は全て吹き飛ばしてあげるからねェ!」
「有象無象の羽虫どもが、龍神の力を思い知るがよいわ!」
大魔女エントラの杖から魔力が解き放たれた!
「メテオフォォール!」
「紫電烈風!」
吹き荒れる紫の雷と全てを切り裂く凄まじい風、そして空から降り注ぐ隕石群は何度も蘇るアンデッドを完膚なきまでに吹き飛ばした。
ボロボロで残ったアンデッドはヘックス、シート、シーツ、フロア、サラサ、マイル、カイリに打ち砕かれ、ついに街道に押し寄せたアンデッドはその姿を消した。
「エリアちゃんがいたらもっと楽だったんだけどねェ……」
「そう言うでない。ユカ坊達も今頃別の場所で戦っておるのじゃろうからな」
実際その頃ユカ達は砂漠の街でサンドイーターを相手に闘っている頃だった。




