882 守りたいもの
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サラサとフロアはヘックスにもたれかかって寝ている少女を見て驚いている。
「サラサそっくりだ。いや、むしろフワフワ様?」
「この娘、我に似ている。だが、何者?」
そんな二人をヘックスは静かな声で注意した。
「そんな大声を出すな、ワタゲが起きてしまうではないか」
「「ワタゲ?」」
「この娘の名前だ。この娘は間違いなくフワフワの生まれ変わりだ」
それを聞いたフロア達は納得しているようだ。
「確かに、この娘には何か俺達と同じものを感じる」
「今さっき遊び疲れて寝たところだ、起こさないでやってくれ」
今までの生きた傍若無人とも言えるヘックスが、ワタゲの為に気を遣っている。
それは彼の中の心境の変化だけではないのかもしれない。
本来の力の大半を吸い取られてしまった彼は今、初めて弱い立場というものを理解したのかもしれない。
まあそれでも通常のモンスターに比べればS級かA級レベルなのでよほど強いのだが、本来の彼の強さからすると比べ物にならない弱体化だ。
だから力の無いというものがどういうものなのか、ヘックスは初めてそれを実感しているのだろう。
かつてクーリエ、エイータに魔法陣の結界で封じられていた時は、力はそのまま、発揮したものを別の場所に発散されてしまう形だったので力そのものがないという状態ではなかった。
しかし今のヘックスは本来の力を奪われ、初めて彼にとっての弱者、無力を感じている状態だ。
そんな彼が自らの力を出し切っても守りたいと感じる存在、それがかつての彼の唯一愛した女性フワフワだった。
だが運命の悪戯か、ヘックスは今の時代にフワフワの生まれ変わりである少女、ワタゲに巡り合うことが出来た。
だから何が何でも彼はその少女、ワタゲを守ろうと誓ったのだ。
「お前は俺様が絶対に守ってやる」
「ふぅああぁ、よく寝たぁ」
「起きたか」
「あ、クロちゃん。おはよ」
馬車は一旦馬を休ませるために泉のほとりで野宿する事になった。
大魔女エントラと龍神イオリはこの辺りで何か食糧になるものを採りにいったようだ。
「あたし、何か探してくるね」
「ワタゲ、遠くにいっちゃダメよ」
「はーい」
ワタゲは何か食べれる木の実がないかを探しに森の中に入った。
フロアとサラサはシートとシーツと共に別方向に向かい、カイリとマイルは料理の準備をしている。
つまり、今ワタゲは誰も一緒にいない状態で木の実を取りにいってしまったのだ。
このまま何もなければいいのだが、この森の中にはハイレベルのモンスターもいる。
そしてもう夕方になっているので辺りは暗く、迷いやすくなっている。
……そして、案の定、ワタゲは薄暗い森の中で迷ってしまった。
「ふえぇぇ、ここってどこなのぉ? パパ、ママ、怖いよぉ……」
そんな無防備でレベルの低い女の子、当然ながらモンスターの大好物と言える。
モンスターの大群の中に無力な少女一人。
彼女はなすすべもなく、怯えるだけだった……。
「ガルルルル……」
「ゲギャギャギャ! ギャシャー!」
「ウォーォーン!!」
多くのモンスターの叫び声が聞こえる。
このモンスター達は美味しそうな餌の臭いを嗅ぎつけ、現れたのだ。
ワタゲは泣き叫ぶだけだった。
「いやぁぁあ! 誰か、助けてぇ!」
その叫び声が聞こえたのは……ヘックスだった!
「この声は、ワタゲ! 待っていろ!! すぐに行くぞ!」
ヘックスは声の聞こえた方目指し、空を駆け、飛び立った、
「待っていろ、ワタゲ、俺様がすぐに行くからな!!」
ヘックスは泣き叫ぶワタゲを守るため、全速力で彼女の元へ急いだ。
そう、彼女こそがヘックスが最も大切で守りたいものだったからだ。
薄暗い森の中でモンスターにワタゲが襲われそうになった時!
「俺様のワタゲに手をだすんじゃねぇ!」
ヘックスはモンスターを一撃で吹き飛ばした!




