881 黒竜のくろすけ
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黒竜王ヘックスは龍神イオリに圧倒され、黙るしかなかったようだ。
本来なら互角かヘックスの方が格上なのだが、彼はボルケーノの館での罠にハマって本来の能力を吸い取られ、一万分の一程度の力しか発揮できていない。
まあそれでも通常モンスターに比べればSかAランクのドラゴンと同レベルと言えるのだが、SSクラスの龍神イオリからするとペットか使い魔くらいの強さだ。
その彼は今、龍神イオリの使い魔、くろすけと名付けられ、その立場に甘んじている。
今の状態の彼はどう考えてもイオリに勝てるだけの強さではない。
なので不本意ではあれども、彼は龍神イオリに従うしかない。
「聞いておるのか? くろすけ!」
「だ、ダレがくろすけだっ! この俺様……」
『黙っておれ、今だけじゃ、ここでお主が黒竜王へっくすだとバレるとこの国の全ての者を敵にして戦うことになるんじゃぞ。今のおぬしの力ではとても太刀打ち出来まい』
『ぬ、ぬうぅ……』
いくら黒竜王ヘックスが世界を敵にして戦ったことがあるといえど、それは本来の力で戦った場合だ
現在の彼は本来の力の一万分の一の力しかない。
流石の彼もこの力で戦うのは自殺行為だ。
だからここは素直に龍神イオリに従った方が良さそうだと彼も実感していた。
「聞いておりますよ、ご主人様!」
そんな彼を子供達が羨望の眼差しで見つめていた。
「わあ、カッコいいなー。キミ、くろすけっていうんだ。よろしくね」
「な、何だと! 馴れ馴れしい奴らめ!」
「くろすけ、黙らんか!」
龍神イオリの鋭い眼光がヘックスを射抜いた。すると、流石のヘックスもこの鋭い眼光の前には黙るしかなかったようだ。彼は黙って子供達に撫でられているしかなかった」
「わあ、この子賢いんだね。よろしくね、くろすけくん」
「このガキ……!」
「黙らんか、くろすけ!」
「くっ……元の姿に戻ったらこんな連中全部一瞬で滅ぼして……」
だが、言葉の途中で、ヘックスは言葉を失った。
「フワフワ……?」
「なに? クロちゃん」
なんと、ヘックスが見た少女は、かつて彼の愛した獣人の少女フワフワにそっくりだったのだ。
「くろすけだからクロちゃん、よろしくね、クロちゃん」
「小娘、お前の名は何というのだ?」
「あたし、ワタゲって名前だよ。よろしくね」
「ワタゲ、か……」
彼女と会話をするうちにヘックスの中の怒りがどんどん静まっていった。
「信じられんが、そっくりだ……まさか、フワフワの生まれ変わりだとでもいうのか……」
「クロちゃん、なにそのふわふわって。でもなんかだか懐かしい言葉な気がする」
「……間違いない。まさかまた生きてお前と会えるとは、運命というものはあるのかもしれんな……」
「どうしたの、クロちゃん。泣いてるの?」
「な、なんでもない……気にするな」
ヘックスは彼女の事を転生したフワフワだと確信した。
それを見ていた大魔女エントラと龍神イオリはニッコリと笑っていた。
「よかったのう。くろすけ。その子に可愛がってもらうんじゃな」
「う……エントラ、イオリ……まあ、いいだろう。しばらくはこのまま使い魔をやってやろう」
ヘックスはワタゲと会えたきっかけがイオリの使い魔に徹した事だったため、しばらくはこの事を受け入れる事にしたようだ。
彼にとっては黒竜王としてのプライドよりも、このワタゲという少女に会えたことの方がよほど重要だったのだろう。
ヘックスはワタゲの話し相手になり、彼女が疲れて寝てしまった後は彼女のそばで枕がわりになり、見守っていた。
「ふああぁ。よく寝た……って、ヘックス様、一体何があったんですか??」
「しっ、黙ってろ。ワタゲが起きてしまうではないか」
「ワタゲ? その子の事ですか……って!」
「そうか、おまえも気がついたか」
どうやらフロアとサラサはヘックスにもたれかかって寝ているのが誰なのかを薄々気がついたようだった。




