878 ザッハーク神教
◆◆◆
ユカ達と別れた大魔女エントラ達は、この国について調べる為に大きな町を目指した。
本来なら魔法を使ったり、体力だけでもこの国の中を瞬時に移動できるのだが、彼女らはあえて乗り合い馬車を利用する事にした。
それは、この国に住む人達の隠さない本音を聞き出す為だ。
つまり、旅の中で居合わせた乗り合い馬車の中だと、長い時間退屈しない為に人は何かを話したくなる心理を利用してこの国についての情報を手に入れようというわけだ。
今の彼女達には見た目からして貴族とわかるホームとルームの双子がいないので、下手に取り繕う必要も無い。
自然体で乗り合わせた馬車の人から話を聞き出す事は容易に出来るだろう。
また、フロアとサラサの二人がシートとシーツの双子の狼を従えていることから、何も知らない一般人でもこの二人が獣使いだとわかるはず。
これだけ高レベルの獣使いとなると、馬車の用心棒代わりにもなるのでむしろ馬車の方から乗って欲しいと頼まれるくらいだ。
「アンタら、もし良かったら乗ってくれないか? 御代は当然タダでいいよ。いや、こちらが金を払うくらいだ」
「良いのかねェ、なんだか悪い気がするねェ」
「いえいえ、貴女がたのようなとても強そうな冒険者に乗ってもらえるだけで盗賊やモンスター避けになりますから」
大魔女エントラ、龍神イオリ、フロア、サラサ、大海賊カイリにマイルの兄妹、そしてシートとシーツの二匹の狼、これらの最強レベルのパーティが乗っている馬車を襲おうなんて自殺行為とも言える無謀なものだ。
実際、馬車の御者が不思議がるくらい、モンスターも盗賊も姿を見せなかった。
まあ、あれだけ大きな狼が横に二匹いるのを見れば誰でもこの馬車を襲おうという気にはならないだろう。
まあ、本当にその狼の双子より強いのはむしろ馬車の中の六人なのだが、それに気がつく前に二匹の狼を見ただけで大半のモンスターも盗賊も一目散に逃げ出したわけだ。
「退屈だねェ、盗賊かモンスターでも襲って来たらちょっと遊んでやろうかと思ってたんだけどねェ」
「おぬしはやりすぎるから少しは抑えるんじゃな。のう、どうじゃ、この穏やかな風景、こういうものを愛でるのも風流じゃて。まあおぬしには数百年経っても理解できんじゃろうがな」
「あら、言ってくれるじゃない。それじゃあ久々になまった身体を動かすとするかねェ!」
「よさぬか。他に乗り合わせておる者に被害が出るじゃろうが。ワシらが何のためにこの馬車に乗ったのか忘れたのかこのクソたわけ」
大魔女エントラは龍神イオリの指摘に黙るしか無かった。
「わ、わかったからねェ。仕方ないねェ……」
「分かれば良いんじゃ、分かれば」
馬車に乗り合わせた他の客はこの二人のことをジロジロと見ていた。
まあそりゃあ異国の服装をした美少女と妙齢の美女が二人で話しているなら気にもなるだろう。
「あの、お二人はどういったご関係なのですか?」
「あ、この人はワ……わたしの母の友達でして、この国に用事があるといってましたので、忙しくて動けない母の代わりにわたしがついて来たのです」
「イオリ……アンタ……」
『ここで下手に騒ぎを起こすわけにもいかんじゃろう、ここはワシの言うとおりにしておけ』
「そ、そうなのよねェ、この国には面白いものがあるって聞いたからねェ……」
大魔女エントラは龍神イオリの言う事に話を合わせた。
「お、お前さん達もアレを見に来たのか。まあ、この国ではアレを見に来る人は多いからな」
「アレ? 一体それは何のことなのかねェ?」
「え、お姉さんたち知らずにここに来たの? ここはザッハーク神教の総本山があるからそこに巡礼にきたんじゃないの?」
「ザッハーク神教??」
どうやらこの乗合馬車の向かう先はザッハーク神教の総本山らしい。




