86 消える命 咲く命
アジトが魔法陣のサイズの底無し沼に完全に沈み込むのにそう時間はかからなかった。
そして人造地震の瓦礫も邪神像も全てが底なし沼の中に沈み……辺りは静寂だけが残った。
「やった……アジトを……倒した」
「ユカ様……やり……ました……ね」
「……もう、嫌です……わ」
私を含め、全員が疲労困憊で誰一人動けなかった。
その中でも、最も状況が悪かったのが銀狼王・ロボとブランカだった。
「俺ももう……動けない。銀……狼……王よ、すまない」
「グル………ル……ル(もう……いい)」
ロボの命は風前の灯火、ブランカは死を待つだけで横たわったまま荒く呼吸をしていた。
その時、ワープ床からマイルさんが戻ってきたのだ!
「みんな! 無事!? さっき凄い地震があったから心配になって戻ってきたよ!」
「マイル……さん」
「ユカ! 盗賊は倒したんだね!」
「うん……でももう動けない……よ」
「待ってて! 盗賊のお宝ならハイポーションやエーテル、エリクサーがあるかもしれない!」
マイルさんは盗賊の宝物庫に向かった。
そして少ししてマイルさんは両手いっぱいのポーションやマジックポーション等を持ってきてくれた。
「マイルさん、ありがとう」
「感謝します」
「有難うございます…です、わ」
マイルさんのおかげでどうにかみんなハイポーションやマジックポーションで最低限動ける程度の体力を回復させる事が出来た。
「でも……ロボとブランカが……」
「命の恩人に何もしてあげられないなんて……僕は嫌です!」
「私も……せめて美味しい最高級のビーフくらいご馳走してあげたいですわ」
「私が……レザレクションが使えないから……」
「エリア……君が悪いんじゃないよ」
ロボとブランカはもう寝ているだけでも息が荒く苦しそうだった。
「マイルさん、植物に詳しい貴女なら何かこの中に使える物は無いのですか!?」
「ユカ……わかった! すぐ調べるよ!」
マイルさんは宝物庫から持ってきた宝の中から虹色に輝く美しい実を取り出した。
「これよ! これこそが奇跡の実!」
「奇跡の実?」
「食べた者に一度だけ奇跡を起こせる木の実よ」
「ではそれをロボとブランカに!」
「……残念だけど実は一つだけなのよ」
「二つに切って使えないかな?」
「残念だけどそれだと効力は消えるわ‥…」
奇跡の実を与える事が出来るのは一匹だけ、それをどうできるのか。
「ユカさん……ブランカが命を引き取ったよ……」
ブランカはもう動かなかった。そして私達はロボに奇跡の実を与えたのだ。
これで……奇跡が起こる事を祈る!
「グルルル……ううううう。」
「ロボ!?」
「我の……言葉が分かるのか……」
「これが奇跡なのか……」
奇跡の実がロボに起こした奇跡は最後に私達と話す力だった。
「いい……我には過ぎたる奇跡だ……」
「これ以上しゃべるな!」
「我はもう死ぬ……それは変えられぬ……定めだ……。だが、一つだけ……頼みたい事があ……る」
「誇り高き銀狼王よ、俺がその願いを聞こう!」
「感謝する……森の民よ」
銀狼王は最後の力で私達に願いを伝えようとしていた。
「ブランカはもう……逝った……か、だが……妻の中……には……新たな……命」
「銀狼王、わかった。もうしゃべるな!」
「ブランカさんには赤ちゃんがいるんですね! 分かりました、ボク達が……育てます!」
「銀狼王よ、誇り高き銀狼の子。俺が引き受けた! 安心して眠るがよい」
「感謝……す……る。我……の毛皮……持って行くが……良い。ブラン……カ、我も……すぐ……行く……ぞ…………」
そして、銀狼王・ロボは妻ブランカの隣で永久の眠りについた。
「フロアさん! ブランカさんのお腹を!」
「わかった! ユカさん、頼む!」
私は遺跡の剣で赤ん坊に傷がつかないように薄皮を切る形でブランカの腹部を切った。
そしてフロアさんがその中に手を入れて赤ちゃんの狼を取り出した!
「ユカ! 赤ちゃんが!!」
腹部から取り出されたのは双子の赤ん坊の狼で、二匹は静かに寝息を立てていた。