85 お前はここで沈んでゆけ
「オレがおしまいだと……? 冗談はよせ」
奴は油断している、何故なら自分は死なないと自負しているのでどんな攻撃でも意味が無いとわかっているからだ。
しかし、倒すのが目的ではないとなると……奴はどうなるか。
「ああ、お前はもう二度とボクに手出しは出来ない!」
「生憎……オレは冗談が嫌いなんでなァ!! 不愉快だからそろそろ死ね!」
奴は頭に血が上っている、よし! 奴の注意を全部こちらに集める事に成功した!
「ユカさん! みんなどうにか魔法陣の外に出ました!」
「フロアさん、ありがとう!」
フロアさんが動けないホームやルーム、最後の力を使った銀狼王とブランカをどうにか全力を出し切って魔法陣の外に連れ出してくれた。
これで奴を倒す下準備は出来た!
「あんなザコ共、もうどうでもいい……古狼とそのつがいもじき死ぬ……、そして記念すべき1000個目の魂は貴様だ」
「そのセリフそっくりお前に返してやるっ!」
アジトは1000個目にこだわり、私以外は目に入っていないようだ。
これなら思い通りに動ける。
「ボクの必殺剣をお前に見せてやる!」
「んー? 必殺剣だと?」
私はわざとらしく大きく縦に遺跡の剣を構えた。
「行くぞ! 必殺……地裂衝」
私が大げさに剣を地面に叩きつけると地面に大穴が開いた、しかしこれは必殺技でも何でもない。
実は地面に剣が付く前にソークツが大穴をあけた地面をマップチェンジで作っているだけだ。
「な? まだこんな力があったのか!?」
アジトは思った通りに引っかかってくれた! これは次の作戦の為の第一段階だ。
「食らえ! 地裂衝!」
私の振りかぶった剣は祭壇の前の水辺に大穴を開けた、本当の目的はこっちなのだ。
水辺から水が滔々とあふれ出した。地面がどんどんぬかるんでいく。
「ここからが本当の地獄だ!」
私はブラフを言うと、今度はこの魔法陣の周囲全体を一秒間に何十回とマップチェンジで上下の高さを変化させ続けた。
「な……地震だと!? バカな!」
「そうさ……ボクの地裂衝はこの辺りの地盤を緩くして水を漏れさせて地震を起こすのが目的だったのさ!」
「バカな!? ありえない!!」
よし! アジトはブラフに引っかかった!! 地震と思わせたのは上部から色々と瓦礫や岩の天井を落とさせるためだ、落ちてくる物があればそちらに目が行く。
「小僧……まさかこの神殿ごとオレを生き埋めにするというのか!?」
「そうだ! お前はここで二度と動けなくなる」
「卑怯者が!! そんな勝ち方で嬉しいのか?」
「ああ嬉しいね、お前の顔をもう見なくて済むんだからな!!」
「貴様……」
私の疑似的人造地震でアジトはまともに動けない、しかし私は自分の足元だけは一切動かない状態にしていた。
「貴様ァ! 許さんぞ卑怯者がァ!!」
アジトは25メートル四方の魔法陣のほぼ中央の辺りで動けなかった、私は自分の上の瓦礫をワザと落とし、それを避けるフリをしながら魔法陣の外に出た。
これで準備は整った。怪しまれない様に人造地震は連続で起こし続けている。
念の為、アジトがまともに歩けないように地震を起こし続けながら、私は祭壇の巨大な邪神像の床を斜めにマップチェンジした。
「な……邪神像が倒れてきただと!?」
邪神像は斜めに転がり、アジトは邪神像に潰されないように魂喰らいで受け止めていた。
「お前はこれで終わりだ! アジトの周りの魔法陣を全て底無しの泥沼にチェンジ!!」
「!!!!????」
「貴様!? オレをハメやがったな!!」
「そうだ、もうお前は動けない……その泥沼は底無し沼だ!」
アジトは上部からの瓦礫と巨大な邪神像に踏みつぶされる形で身動き一つ出来なかった。
「う……動けない……だと!?」
アジトの身体がもう下半身まで沈み込み、身動きできない奴は上半身と自ら切り離して動こうとしていた。
「そうはさせないっ!」
ホームが最後の全力で投げた、折れた先祖伝来の名剣はアジトの腕を斬り飛ばし、魂喰らいを魔法陣の外に弾き飛ばした。
「オ……オレの剣がぁ……」
「アジト……お前は死なない、そしてこれは底無しの沼だ。」
「き…さ…ま……」
「お前は永遠に死ねない、そしてこれ以上誰も殺せない。つまり邪神への生贄はもう誰も捧げられないのだ……」
「助けてくれ……オレを……どうするつもりだ!?」
「お前はここで沈んでゆけ」
「た……助けてぇーーー! ダ…ハーカさまぁぁぁぁーーーーーー!!!」
それがアジトの断末魔の声だった。