850 老婆の追憶
ボクはマップチェンジスキルで地面に穴を開け、老婆の家の地下室に入った。
どうやらここは倉庫の中の様だ。
中はカビ臭く、おそらく何年も使われていない様子だった。
ボクは床を歩き、倉庫の階段のところに移動した。
倉庫の扉は固く閉ざされていて、およそ何年も開いた事が無い感じだった。
この扉を開けた上のところにあの老婆がいるのかもしれない。
ただしボクは彼女と戦うつもりはない。
どうして彼女があそこまでよそ者を憎むのかの理由が知りたいだけだ。
あの老婆のよそ者の嫌い方、いや憎んでいるといっても良いくらいだ。
一体なぜあれほどまでによそ者を憎むのだろうか?
ボクが階段を登ると、そこは灯りのない広い部屋だった。
その部屋の机には綺麗な少女と、凛々しい男性の絵が描かれた小さな絵が無造作に置かれていた。
ひょっとしてこの少女があの老婆なのだろうか?
もしそうだとすると時の流れは残酷なものなのかもしれない……。
「誰だい? わしの部屋にあるのは!?」
マズイッ! 見つかる!
ボクは床をマップチェンジスキルで穴を開け、下の階層に逃げた。
そこでボクは恐ろしいものを見てしまった!
そこにあったのは、数十年は経っているかという白骨だった。
白骨には深く刃物を刺した跡が見える。
ひょっとしてここってあのさっきのもう使われていない倉庫だったのか??
「おかしいね、人の気配がしたんだけど……まさか、あいつが化けて出たとでもいうのかい!?」
老婆は階段を降りてきた。 ボクは逃げ場が無いので、倉庫の中に動かずにいることにした。
老婆はそんなボクの事に気がついてしまったようだ。
「おや、誰かいるのかい? なんでこんなとこに人がいるんだい??」
「た、助けてください……火山の岩で空いた穴に落ちてしまい、ここから動けなかったんです」
「しょうがないねえ、って、アンタ昼間の小僧かい!!」
老婆は呆れながらもボクを部屋から出してくれた。
「小僧、この部屋で何を見た?」
「ボ、ボクは何も見ていませんよ!」
「朝をつけ! この倉庫でお前は何かを見たはずだ、隠すとタメにならないよ!」
「骸骨を…見ました」
ボクが白状すると、老婆は何も言わずに階段の上に登った。
それはついて来いという意味だろう、ボクは黙ってそれについて行った。
「さあ。飲みな。大丈夫だよ、毒なんて入れてないよ」
そう言って老婆はボクと同じものを飲み出した。
ボクも少し飲んでみたが、苦い! でも出されたものを飲まないわけにはいかないのでボクは一気に苦い飲み物を飲み干した。
「ほう、コレはちびちびと飲むものなんだけどね……、まあいい。アンタ、この地下のモノを見てしまったんだろ。アレがわしがよそ者を嫌う理由だよ」
「それは……?」
「アンタ、本当はこの家に入ったんだろ。それなら上の部屋の絵を見たはずだよ」
老婆はボクの事に気がついていたのか。
「あの絵は、貴女なのですか?」
「そうさね、もうずっと昔の話だよ。まだわしが可憐な乙女だった頃、わしにはこの村で一緒に育った幼馴染の男がいた。そしてわしは彼と成人してから夫婦になると契りを交わしておった……その婚儀の前日、この村に傷ついた男が訪れた」
老婆は泣きそうな声で話の続きをしてくれた。
「わしと彼は村の掟を破り、傷ついた男を助けてやった。だが男は傷ついていて、裏山に咲く薬草が必要だった。わしの夫になるはずだった彼は、その男の為に薬草を取りに向かった」
そして老婆はテーブルを叩いた、よほど悔しい事を思い出したのだろう。
「じゃが、山の神は禁忌を破ったわしらを許さなかった。山に向かった男は火の山の怒りにより、その身を打たれて砕かれた。そしてわしは、助けたはずの男に倉庫で襲われそうになったのじゃ」
老婆が目を瞑りながら重々しく口を開いた。
「そして、わしは自分の身を守るために襲ってきた男を刃物で刺し殺した。アンタが倉庫で見たのはその男の成れの果てじゃ」
そうか、あの骸骨はその時のものだったのか……。




