847 唸る山
ボク達は村から見える山に登る事にした。
魔法を使えばすぐに登れるのだが、下手に魔法を使うと怪しまれるのと、むしろ山が唸るという話は実際に登らないと理由がわからない。
大魔女エントラ様の住んでいた山を登った時よりはよほどマシだがこの山もかなり入り組んでいて登るのに一苦労だ。
まあ危険な足場はボクのマップチェンジスキルや山に慣れたフロアさん、サラサさん達のおかげで難なく先に進む事が出来ている。
——ゴゴゴゴゴッ———
地震だ!
ボク達が山を登っていると地震が起きた。
地元の人達はよそ者が山に入ると山の神が怒って地震を巻き起こすと言っていたが、それが本当だと言えるのだろうか?
むしろ何か別の原因があるように感じる。
『ユカ、何か臭わないか?』
『ソウイチロウさん、臭いって何の事ですか?』
『硫黄の臭いだ……少し臭い変な臭いというべきか』
そう言われれば何か卵の腐ったような変な臭いがこの辺りに漂っている。
でもこの臭いが何だというのだろうか?
『ソウイチロウさん、この臭いが何かあるんですか?』
『私は火山国、地震列島と言われた日本にいたからな、だからこの臭いの原因がわかっているんだ。これは、硫黄の臭い、つまり……この山は火山だと言えるだろう。頻発する地鳴りは大噴火の前触れだと言えるかもしれない!』
そんな! もし火山が爆発したら、ボク達がお世話になったふもとの村は全滅確定だ!!
それは避けないと。
でも一体どうすれば……。
「ユカ様.一体どうしたのですか? 何か深刻な顔をしていますが……。僕で良ければお話を聞きますが」
「ホームさん、実はボクは恐ろしい事に気がついてしまいました! この山は休眠中の火山なんです。つまりもし溜まったエネルギーが一気に吐き出されてしまうと……溶岩と火山流、それに噴煙でこのふもとにある村が滅びてしまいます!!」
ボクがそう言うと、みんなが深刻そうに話を聞いてくれた。
「大変じゃないですか!!」
「それは一大事だねェ。まあ妾ならその危機を乗り越える事も出来るけどねェ。まあ、あの住人達がそれをきちんと受け止める気持ちがあるかどうかだねェ」
確かにエントラ様の言うとおりなんだよな。
もしこちらが村を助けようとしても、これを定めだと受け止めるような村人達ばかりなら避難しようとは考えずに村が溶岩流に飲み込まれる事をそのまま受け止めるだろう。
それにもしこの力がザッハークに敵対するクーリエ・エイータの力だと聞いたら、あの村人達が素直に感謝するとは思えない……。
でも見殺しには出来ない!
多分この地面の揺れ具合、もう爆発間近だと言えるだろう。
「俺様の力が全盛ならあの程度の山ブレスで吹き飛ばせるんだがな、今のこの状態ではとても出来んわ、まったく、あのボルケーノ……元に戻れたら文句言ってやる!!」
子供のドラゴンサイズに縮んでしまった黒竜王ヘックスが息巻いている。
だが今の彼は本来の力の一万分の一程度の力しか無い。
それでも流石はドラゴンの王というべきか。
これだけ弱体化してようやくAクラスモンスターと同じレベルだ。
本気を出せばS級モンスターを一人で倒す事も出来るだろう。
だが今の彼ではこの唸る山を吹き飛ばせる程の力は無い。
黒竜王ヘックスが戦力にならないとすると、ここにいる全員で出来る事はどうにか、村に戻りこの未曾有の大災害を住民に伝える事くらいだろう。
——ゴゴゴゴゴッ! ゴゴゴゴゴッ!——
これはっ!?
ボク達の足元で大きく地面が揺れた!
そして……ついに起きて欲しくない最悪の事態になってしまった!!
ドゴゴォーーーン!!
山の頂上付近から巨大な火柱が立ち上った。
やはり、あれは火山の大噴火だ!!
急がないと、この事を早く伝えなくてはあの村の住民にどれだけの被害が出るのか?
ボク達は急いで飛行魔法を使い山からふもとの村に降りた。




