845 難民に相応しい風貌
「どうやらその様子だとボルケーノ様に会えたようですね」
「ゴーティ伯爵、こちらの絵をどうぞご覧ください」
ボクはゴーティ伯爵にボルケーノ様から預かった絵を手渡した。
「これは……まさか、私とヴェッソーの……そうですか、コレを私に、ありがとうございます」
ゴーティ伯爵は大切そうに絵を受け取り、抱き抱えた。
この絵、よほど彼にとっては大切な絵なのだろう。
まあボルケーノ様の居場所を教えてくれたお礼としてはまあ、問題ないだろうな。
「お父様、お聞きしたい事がございます」
「ルームか、一体何を聞きたいんだい?」
「お父様はザッハーク神国と、砂漠の国ディザードの事はご存知でしょうか?」
ゴーティ伯爵の目が一瞬鋭くなったが、また普段の目に戻った。
どうやらザッハーク神国かディザードのどちらかが彼にとっての敵だったのだろう。
「皆様、その名前、ボルケーノ様にお聞きされましたか?」
「はい、ボク達は彼に一度この国を離れてその二つに向かえと言われました。ゴーティ伯爵はこの国をご存知なのですね」
「はい、どちらも私が騎士団長として前線で戦った国です。ザッハークは魔法部隊が強力で、ディザードは猛獣戦士団が強力でした」
なるほど、どうもこの国はどちらもボク達の味方とは言えなそうだな……。
ボク達がグランド帝国の人間である事は明白だろうから、あくまでも悪徳貴族から逃げてきたという話で進めた方がいいだろう。
「ゴーティ伯爵、ありがとうございます。大体二つの国の事は分かりました。ボク達は悪徳貴族や魔族から逃げてきたという形で話を進めて二つの国に向かう事にします。
「そうですか。それではその姿はあまりおすすめ出来ませんね」
どういう事だろうか?
「ゴーティ伯爵!おすすめ出来ないとはどういう意味ですか?」
「今のユカ様達の姿は綺麗すぎるのですよ。悪徳貴族の横暴から逃げてきたにしては立派な格好という方が正しいですかね」
なるほど、確かに言われればそうだ。
ボクが記憶で知っているヘクタール領から逃げてきた人は傷だらけのボロボロの姿で立っているのがやっとで気力だけで逃げてきていた。
実際のヘクタール領に入った後も住民が全員みすぼらしい服装で生きていくだけでやっとといった風貌だったな。
「なるほどねェ。それなら服装をカモフラージュした方が良さそうだねェ。まあ妾に任せてみるんだねェ」
そういうと、大魔女エントラ様はボク達の服装を変化させてしまった。
この見た目、擦り切れてボロボロの服装に見える。
また全身も傷だらけのようになっている。
「あくまでも見た目だけだけだからねェ。実際にはオリハルコンの鎧にオリハルコンの剣、その性能は変わって無いからねェ」
ボクは錆びついている刃こぼれしたボロボロの剣で用意された石を切った。
すると、石は何の問題もなくスパッと真っ二つになった。
「さあ、その姿なら誰も疑わないだろうからねェ、みんな我慢するんだねェ」
大魔女エントラ様はそう言うとボク達全員の格好を擦り切れてボロボロの見た目に変更させた。
ゴーティ伯爵が笑いを堪えるのに必死なのが伝わってくる。
まあどう見ても今のボク達は浮浪者か難民にしか見えない。
「それでは……皆様、お気をつけて」
「お父様! 笑わないで下さいませっ!!」
「す、すまない。あまりにも普段の服装とはかけ離れた姿につい、本当にすまない……」
まあゴーティ伯爵の気持ちもわからないでは無い。
普段見慣れている双子と違い、今の彼らは浅黒い肌に黒い髪で薄汚れたスラムの子供といった風貌になっている。
「アタイ、言葉も変えた方がいいのかよ!」
「ルーム、その姿で変な話し方しないでくれ、本当にもう我慢できなくなる……プッハハハハハ! ダメだ、お腹が痛い!!」
ゴーティ伯爵は変装した双子を見てついに笑いを堪えきれずに限界に達してしまったようだ。




