841 出てきたボルケーノ様
大賢者と呼ばれるボルケーノ様がまさか自ら落とし穴に落ちるとは……。
まあ僕はどうにか無事目的を果たした。
「こらー、早く儂をここから引き揚げんかいー!」
いや、落ちたのボルケーノ様自身でしょ……。
ボクはそうツッコミを入れたかったが、仕方なくマイルさんの伸ばしていた蔓を使い、落とし穴に落ちた人達を引き上げた。
魔力を吸収された黒竜王ヘックスは小さなトカゲサイズになっていて、本人はしゃべれるが力は本来の一万分の一以下みたいだ。
「まさかこんな方法で扉を開けるとはのう、全く驚きぢゃわい」
この飄々としたお爺さんが、ゴーティ伯爵の言っていた元大臣のボルケーノ様なのか……。
「いやしかし、儂の事をどうにか家から出そうとするやつ、儂の命を狙う公爵派等が色々と押し寄せるので儂はこの辺りに罠を仕掛けて誰も入れんようにして隠遁生活を送っておったんぢゃ。お主、ひょっとしてゴーティの息子達か?」
「はい、ボルケーノ様。僕はホーム・フォッシーナ・レジデンスと申します」
「私は、ルーム・フォッシーナ・レジデンスですわ。よろしくお願い致します、ボルケーノ様」
「ほうほう、二人共、確かにゴーティとヴェッソーによく似ておるわ。二人の子と言われればまあ納得ぢゃな。それで、そちらの方のは? 先程の美味そうな匂いのシチューを用意しておった彼は誰ぢゃ?」
どうやらボルケーノ様はボクの母さんのシチューの事がよほど気になっているようだ。
「ボルケーノ様、ボクはウォール戦士長の息子、ユカ・カーサです。どうぞよろしくお願いいたします」
「おお、おお。そうか、あのウォールの息子か。確かに言われれば似ておるな。それにウインドウにも寝ておる。ヴェッソーとウインドウはどちらも魔法王テラスの末裔ぢゃからのう」
「あら、貴方はテラスの事を知っているみたいねェ
「おや、そちらのぱいぱいの大きなおねーさんはどちら様ぢゃ?」
ボルケーノ様……賢者とは思えない品の無い言い方だ。
「あら、貴方は妾の事はご存じないようだねェ」
大魔女エントラ様を見ていたボルケーノ様の顔色が変わった……。
「そそそそそ……そのしゃべり方、その圧倒的な魔力、まままままmまさか……貴女様は、ででっで……伝説の大魔女……エエエエ……エントッラ……様ぁ???」
「あら、思い出したようねェ。まあ会った事あるのは数十年前だったかねェ」
賢者と呼ばれる程のボルケーノ様が腰を抜かした。
どうやら大魔女エントラ様と昔あった事があるようだ。
さしずめ彼にとっては数十年ぶりの邂逅というべきなのだろう……。
「まさか、あの時の悪ガキが今や大賢者様とはねェ、時の経つのは早いもんだねェ」
「エエエエ、エントラ様こそ、何故人の世界に? 貴女様は高い山の上で住んでいたのではないのですか??」
「そうねェ、ここにいるユカと一緒に旅をしていると面白いからだねェ。山の中に籠っていると見えない物、経験できない事が色々あったからねェ」
ボルケーノ様はもう驚きのあまり、腰を抜かしたまま立ち上がれないようだ。
ボクは彼をどうにか手を引っ張って起こし上げた。
「す、すまないのう。ユカ」
どうにか引っ張り上げたボルケーノ様は腰をさすりながら立ち上がった。
「さて。この知恵比べ、儂の負けぢゃ。まさかあんな方法で儂の家の扉を開ける奴が出てくるとは……」
まあ母さんのシチューの匂いはとても美味しそうなのでそりゃあ気になって出てくるだろう。
『まるで佛跳牆だな』
『ソウイチロウさん、何ですかそれ?』
『私の世界の食べ物の名前だ、あまりの美味しそうな匂いに修行僧ですら飛んでくるという意味の名前』
なるほど、この食べ物の匂いに釣られるってのはどこの世界でも同じなんだ。
「それで、それを食わせてはくれんかの、儂はもう腹が減っておったんぢゃ」
ボルケーノ様は母さんのシチューが食べたいとボクにねだってきた。




