838 入り口に入れない家
どうやら大魔女エントラ様が言うには、この森には何かのトラップが仕掛けられているらしい。
多分トラップを仕掛けたのはボルケーノ様で間違いは無いだろう。
だがこのトラップ、ボク達を殺そうという罠ではなく、中に入れさせない為の物らしく、魔力にも嫌な悪意は感じない。
「あー面倒だな、こんな森一気に焼き払って先に進めば良かろう」
「アンタはバカかねェ! そんな事をしたら森が死んでしまうからねェ!!」
黒竜王ヘックスがとんでもない事を言って、大魔女エントラ様に怒られている。
「死ぬと言っても、どうせ数十年もすれば元の森に戻るだろうが、お前こそたかだか数十年の事で何をそんなに気を張っているんだ?」
あ、そうか。
長い時を生きる黒竜王ヘックスにとっては数十年なんて一瞬の事程度にしか感じないのか。
「まったくタワケよのう、お主には風情とか情緒というものが無いのか? 散り行く一瞬の為にあでやかな花を咲かせる、こういうものが刹那であり、また生命の息吹じゃというのに。それを何の気も無く一瞬で焼き払ってしまっては全てが灰になってしまい何ひとつとして残らんではないか、このくそタワケ」
アンさんも長い時を生きるドラゴンの神様だというのに、まるで考え方は正反対だ。
彼女は一日、いや一瞬の命の儚さ、美しさを求めるタイプだと言えるのかな。
「とにかくこの森を焼く事はワシらが許さんぞ、へっくす」
「わかったわかった、それじゃあどうにかしてこの森を抜ける方法でも考えてくれ。俺様はもう知らん」
あーあ、黒竜王ヘックスがへそを曲げてしまった。
どうにか彼の子孫であるフロアさんやサラサさんが森から見つけてきた木の実を彼に手渡した事で少しは機嫌が直ったようだが、とにかく早くココから抜け出さないと……。
しかし森は鬱蒼としていて、前に進んでも後ろに進んでも何度も同じ場所に出てしまう。
どうやら同じような場所がずっと続くから迷ってしまうようだ。
それなら一度この森全体を見てみる事にしよう。
「ボク達の足元の地面の高さを小高い丘くらいまでチェンジ!」
ボクのマップチェンジスキルは森の一部を小高い山に変えてしまった。
この高さからならボルケーノ様の家が見つかるかもしれない。
ボク達は辺りを見回してみた。
「あ、あそこに何か小さな家らしきものが見えます!!」
フロアさんが森の北東の方角に何かを見つけたようだ。
ボクはこの森の地面をマップチェンジで隆起させながらその家の方に向かった。
小高くなった道は迷うことなく、小さな家にまで到着出来た。
家の前に到着したボクは、小高く盛り上がった道を全部元の高さの森に戻した。
これなら森の環境を変化させる事も無く元通りに戻せるだろう。
「ほう、面白いスキルの使い方ぢゃのう……」
「この声、誰ですか!?」
「ほっほっほ、お前さん達、儂に会いに来たのぢゃろう。少しテストさせてもらうぞ。その家の入口、手を使わずに家の中に入れたらお前さん達の話を聞いてやろう。どうぢゃ? 挑戦してみるか?」
いかにもおじいさんといった声が聞こえてくる。
この人がボルケーノ様なのだろうか?
「簡単な事だねェ、こんなの魔法でカギを開ければすぐにでも……」
「ほっほっほ、そこのおっぱいの大きなお姉ちゃん、ここは魔法禁止区域ぢゃぞ」
大魔女エントラ様もルームさんもアンさんも、全員が魔法を封じられているようだ。
どうやらこの家全体がマジックキャンセラーの魔法陣の上に建っているらしい。
「さあ、どうやってこの家の中に入れるかな? 儂とお前さん達の知恵比べぢゃ」
「くっ、不本意ですが一気に扉をぶち破ってみます」
ホームさんが魂の救世主を構え、扉に突撃をしようとした。
だが、扉に攻撃を仕掛けようとした瞬間、ホームさんは落とし穴に落ちてしまった。
「言い忘れたがこの家、下手に物理攻撃で入ろうとすると泥棒除けの落とし穴があるからのー」
それを先に言って下さいよ!!




