836 ボルケーノはどこに?
大魔女エントラ様が呆れた目で黒竜王ヘックスを見ている。
「アンタ、よほどバカなことやってたんだねェ。牛三十頭を平らげるなんて、そりゃ変な伝承にもなるってもんだねェ……」
「仕方ないだろうが、空を飛び続けてて腹が減ってたんだ。それに野生の牛ならなんの問題もないと思って食ってもおかしくないだろう」
黒竜王ヘックスの感覚がわからない。
まあ彼の中ではおかしくない範疇なのだろうが、一般的に見れば常識を遥かに外れた事だ。
ゴーティ伯爵は最初ビックリしていたが、黒竜王ヘックスが僕たちの仲間だと聞いて安心したらしく、大昔の逸話で笑っていた。
「まあそういう勘違いなら仕方ありませんね。放牧を野生の牛と勘違いして全部食べてしまったという訳ですから。しかし牛を飼っていた人達にしたら笑い話では済まないですけどね。私がもしその頃の領主なら牛を食べられた人達全員に何かしらの救済措置は取りますが、昔だとそうもいきませんね」
「だから悪かったと言っているのだ。俺様も悪気があったわけではない」
「そういうことは当事者が言うものじゃないけどねェ」
黒竜王ヘックスは立つ瀬が無さそうだ。
「まあ、事情はわかりました。それで、ユカ様達がここに来た理由からして、グランド皇帝への不信感ということですね」
「何故それを!? まだ何も言っていないのに」
「大体想像はつきますよ、公爵派がいなくなったわけでしょう。そして魔族の脅威も今は鳴りを潜めてる。そうなると彼の事だ、野望を邪魔する者が無くなれば昔からの野望を実現しようとするに違いありません」
なるほど、確かにゴーティ伯爵はグランド皇帝の事を近くで見ていた人だ、彼がどのように考えているのかを見抜いていても何もおかしくはない。
「私が王都から離れて騎士団長を退任した理由は三つあります。一つ目は公爵派貴族にこの領地を荒らさせない為、二つ目は魔族の脅威から国を守る為、そして……三つ目は全ての脅威が無くなった際のグランド皇帝の行動に備える為です」
この人はそこまで想定していたのか!
ボクはこの人が味方で良かったとつくづく感じた。
「それではゴーティ伯爵様はグランド皇帝が世界制覇を考えている事をご存知だったのですか?」
「薄々は、ですがね。彼は昔から文献の本を調べ続けていました。それはかつて存在した古代文明、ゴルガ軍国のゴルガ文明に関する物だったのです。彼の母方は今でこそ名も有りませんがそのルーツを辿ると旧ゴルガの貴族に順ずる一族だったようです。彼は、父方の王国の王ではなく、母親の一族のルーツであるゴルガを復興させようと考え、皇帝を名乗ったのでしょう」
それがグランド皇帝のルーツ、旧ゴルガの貴族、王族というわけか。
「ゴルガの事でしたら一度ボルケーノ様を訪ねてみてください、彼はこの国で知らない事は無いほどのお方です。あの方は私とグランド皇帝の先生で、私達に勉強を教えてくれた方です」
「ボルケーノねェ。聞いた事ある名前だねェ……確か、この国の元大臣じゃ無かったかねェ……」
「そうです、あの方はテリトリー公爵に貶められ、失脚しましたが、この国で一番の認識者と言えるでしょう」
ボク達はボルケーノ元大臣に会う事になった。
しかし彼はどこに住んでいるのだろうか?
「伯爵様、そのボルケーノ様はどちらにおられるのですか?」
「ボルケーノ様は、今は王都の南方にある山の近くにおられます。人里を離れた場所で一人で暮らしているようですね」
「そこ、俺様が寝ていた山の近くでは無いのか?」
なんという事だ。ボルケーノ様はボク達が黒竜王ヘックスと戦った山の近くにいたらしい。
もしあの戦いが長引いて辺りが吹き飛んでいたら彼も知られないままこの世から消えていたのかもしれない!




