830 変わり果てた公爵
テリトリー公爵だった魔神は、憎悪の目でボクを睨んでいる。
どうやらアレも人間である事をやめた末路なのだろう。
この国の悪徳貴族は魔族に魂を売って魔族になった連中が何人かいる。
ボーンゴーレムに取り込まれたヘクタール男爵やグリードスライムに変わり果てたバスラ伯爵等だ。
また、本人が望まずとも魔族に取り込まれてしまった王都の人達などもいたがそれらはエリアさんの創世神クーリエ・エイータの力で浄化され、元の人間に戻る事が出来た。
だが、あのテリトリー公爵の成れの果てである魔神は、明らかにボクに敵意を持っている。
魔将軍アビスかゲート、またはバグスがアイツを魔族にしたのだろう。
そう考えると、あのアンデッドの群れや魔族はテリトリー公爵領にいた被害者なのだろうか。
王都のアンデッド化した人達はエリアさんの浄化スキル、レザレクションで人間に戻る事が出来た。
だが、それはあくまでも人間の姿を保ち、かつアンデッド化して日が浅かったから可能だった事だ。
このテリトリー公爵領のアンデッド達はアンデッドにされてから時間が経ちすぎているのと、五体満足で再現可能な身体の持ち主がいないのでもう倒すか浄化するしか彼らを救う方法は無いのだ。
ボク達が倒したアンデッドは復活する事なく天に消えていった。
オリハルコンの剣に聖属性を付与する事で倒した敵を浄化出来るのだ。
数万いたアンデッドは半分以下になっている。
このアンデッドの群れを作ったのはあのテリトリー公爵の変わり果てた魔神なのだろう。
つまり、アイツさえ倒せばこのアンデッドや魔族の群れは全て倒せるということだ。
しかしボクはこのアンデッドと魔族を見て気がついたことがある。
それは、魔族はそこそこ良い服や鎧を身につけているのに対し、アンデッドはボロボロの鎧や衣服を身につけている事だ。
アイツ、魔族になっても選民思想は魂に染み付いているのだろう、身内の小綺麗な連中は魔族にし、搾取対象の貧民や庶民はアンデッドにしてわざわざ序列を作っているようだ。
全く見ているだけで反吐が出そうになる!
「みんな、アンデッドには出来るだけ傷をつけないようにエリアさんに浄化してもらおう」
「ユカ? 何か理由があるの?」
「ああ、あのテリトリー公爵の成れの果て、貴族かどうかでアンデッドや魔族を選り分けているんだ。貧しい人はアンデッドにされ、自身の身内は魔族にしてるようなんだ」
それを聞いたみんなが呆れ果てた。
「バカみたいだねェ。わざわざそんなところにまで差別や序列を作りたがるなんて」
「ふむ、つまりワシらはアンデッドには手を出さず、あの魔族どもを全滅させれば良いんじゃろ」
「貴族の風上にもおけません! アイツは僕が倒します!」
大魔女エントラ様、アンさん、ホームさんが魔族のみにターゲットを絞り、一気に攻撃を開始した。
レベル40程度の魔族はもう既にボク達の敵ではなく、あっという間に大半が蹴散らされた。
哀れな犠牲者のアンデッドはエリアさんの浄化で天に還し、テリトリー公爵の手下の魔族に成り果てた連中はオーバーキルで打ち砕く。
大魔女エントラ様は剣にかけたエンチャントを聖属性から攻撃力倍加に変更した。
倍以上の攻撃力で一気に叩き潰したオーバーキルは、どうやら魔族達に絶対の恐怖を与えたようだ。
テリトリー公爵の手下の魔族は一目散に逃げ出そうとした。
だが、逃げた魔族は大魔女エントラ様やアンさんに捕まり、その場で塵一つ残さず消滅させられた。
当然浄化されないまま倒された魔族は救われる事もない。
ボク達は1時間もせずに数万以上いた魔族とアンデッドを全て倒し、その場に残ったのはテリトリー公爵の成れの果ての魔神一人だけだった。
「キサマラ、コロス、ゼッタイニ……コロシテヤル!!」
テリトリー公爵の魔神が叫んだ。




