82 魂の慟哭
不死身のアジト、コイツは究極の能力の持ち主だ。
「いくら無敵でも! 消滅させれば再生できないでしょう!」
「ルーム! 無茶はよすんだ!!」
ルームのMPと精神力はほぼ限界だ、しかし彼女もこのアジトの愚劣さが許せないらしい。
「私の……残る魔力の全てを……この一発に込めますわっ!……大魔法 ファイヤー・ウォーーール!!!」
サンダー系では消し炭が残るかもしれないと考えたルームは彼女の使える炎の最大魔法、ファイヤーウォールでアジトを焼き尽くす事にしたのだ。
「グアァァアアアアア!!!」
「やりました……わ。もう……動け……ませ……n」
ルームは全ての魔力を使い果たした、これ以上の魔法力の放出は命に支障をきたすレベルだ。
アジトは装備していた鎧と魔剣とわずかな骨だけを残し、全身が消滅した。
「これでも復活するというのか……そうだとしたら打つ手がない」
「ユカ様! アレを見てください!!」
ホームが指さした先にあったのは黒焦げになったアジトの骨片だった。
なんと! 骨片が小刻みに動き……少しずつ骨格を形成していく!
「カッカカカカカカカ……ムダ……………ダ」
「カカカカ……ハハハ……ハッハッハッハッハ……今のは少し楽しめたぞ!」
アジトは骨片から骨格に、骨格から肉と皮の順に復活し、ほんの数分で元の姿に戻った!
「化け物……コイツは人間ではない!」
「おうおう、酷いこと言うねぇ。まあオレは邪神の加護を受けた元人間だがな!」
「あ……悪夢ですわ……」
「いいぞいいぞ、お嬢ちゃん、その魂のおびえた色……さぞ美味い魂を喰わせてくれるのだろうなぁ!」
アジトは恐怖に怯えたルームの表情を見て下品な舌なめずりをしていた。
コイツは本当に彼の言う通り切っても焼いても下手すれば溶かしても元の姿に戻るというのか。
「お前達の技は見せてもらった……楽しませてもらったお礼にオレの技を見せてやろう!」
アジトはそう言うと禍々しい装飾の黒い刀身の魔剣を鞘から引き抜いた。
ウォォォォォォン……ウォォォォォォン……。
アジトの持つ魔剣から何人もの泣き声らしきものが空気を伝い響いてくる。
「どうだ……素晴らしい音色だろう……この魂の呻き……いつ聞いても心地良いわ!」
「何だそれは……」
「これは魔剣・魂喰らい。オレの愛剣だ」
「許せない……」
「悲しむことは無いぞ、お前達もじき仲間入りするんだかな! さあお前らはどんないい泣き声で泣いてくれるかなぁ?」
「お前だけは生かしていてはいけない生き物だ! 今度こそ僕が倒してやる!」
「先程の技か……良い技だ、俺の骨に響いたぜ!」
アジトはかなり余裕でホームを見ている。
「レジデンス流剣技! 縦横……」
「だが遅いわァ! 魂斬滅!」
「ホーム!」
アジトの致命的な一撃がホームを襲う!
パキイイィィィン!!!
「!!」
縦横斬と魂斬滅の二つの衝撃がぶつかり合う事で……ホームの握っていた先祖代々の名剣が柄の上で折れて砕けた!
「ぐわあぁーー!!」
不幸中の幸いかホームは剣の折れた衝撃で後方に吹き飛ばされ魂喰らいの一撃を避ける事が出来た。
ズザザザーーーーー! ドガッ!!
ホームは地面を擦る形で壁まで叩きつけられた。
「残念だったなぁ!」
万事休す! ホームはもう攻撃を避けるだけの力もタイミングもなかった。
その時!
ズバァ!
アジトの振るった魂喰らいは確実な肉を切り裂いた感触を感じていた。しかし、それはホームのものではなかった。
「ウオオオオオオォオーーン!!」
なんと、ホームを庇ったのは満身創痍のはずの銀狼王・ロボだったのだ!
「ほう……これは予定外だったが、極上の魂だ!」
「グルルル……」
ロボは倒れそうな体を張ってまで動けないホームの前に立ち尽くすのだった。
それは……命の最後の輝きを全て今の瞬間の為に燃やそうとする誇り高き銀狼王の最後の雄姿だった。