827 新たなる仲間、黒竜王ヘックス
ボク達は黒竜王ヘックスを仲間にし、飛行艇グランナスカに乗り込んだ。
「ほう、中はこんな風になっているのか。以前俺様が沈めたゴルガの船とは別物みたいだな」
黒竜王ヘックスは寝ぼけながらもあの空帝戦艦アルビオンを沈めた事は覚えていたようだ。
「まあこれはアルカディア文明の船だからねェ。ゴルガとは敵対していた創世神を信仰する古代の民の船といったところだねェ」
「確かにこの速さ、俺様の翼よりも早いかもしれんな」
今黒竜王ヘックスは空を飛べる状態ではないようだ。
まあ今は獣人族のフロアさん達と同じような姿になっているので翼の傷がどれ程のものかは分からないけど……。
「あの……傷を、治しましょうか?」
「いや、それには及ばん。この怪我は俺様がお前達を攻撃して返り討ちに遭ってしまったものだ。それをわざわざ迷惑をかけた相手にやって貰ったら俺様の立場が無い」
そう言っていた黒竜王ヘックスの背中を叩いたのは大魔女エントラ様だった。
「イタタタタッ、オイ、エントラ、一体何をするつもりだ!?」
「何を格好つけてるかねェ、怪我を直してほしいなら素直に直してくださいと言えばいいのにねェ」
「……」
エリアさんが黒竜王ヘックスと大魔女エントラ様のやり取りを見て笑っている。
「いいんですよ、私達はもう仲間なのですから。さあ、傷を癒しましょう、レザレクション!」
「こ、これはっ!?」
黒竜王ヘックスの傷ついた身体がどんどん癒されていく。
流石は創世神クーリエ・エイータの半身というべきだろう。
普通の魔法使いや僧侶と呼ばれる人達でも、これだけ膨大なHPを持つ黒竜王のHPを完全回復させるには数十人がかりでも無理だろう。
それが大僧正や法王と呼ばれるような最高位の人物でも、この黒竜王ヘックスのHPを回復するのはほぼ不可能だと言える。
だが、エリアさんはそれを実現している。
「信じられん、俺様の体力が……完全に回復しただと!?」
「それがエリアちゃんの力なのよねェ。どう? 回復してもらってよかったでしょう?」
「素晴らしい、これならいくらでも空を飛ぶことが出来そうだ!」
「バカバカバカ! アンタはバカかねェ! こんな場所でドラゴンの姿に戻ったら船がバラバラになってしまうでしょうねェ!」
危ない所だった。
大魔女エントラ様が言わなければいくらオリハルコンで作られたこの飛行艇グランナスカと言えども内部から巨大化した黒竜王ヘックスのせいでブッ壊れてしまうところだった!
「やるならせめて甲板に行ってからドラゴンの姿になるんだねェ!」
「う、うむ。わかった……」
黒竜王ヘックスはそう言うと甲板に向かい、そこで外に出た。
「よし、ここなら元の姿に戻れそうだ! グォオオオオオオッ!」
黒竜王ヘックスは全身漆黒の鱗に覆われたドラゴンに姿を変えた。
「素晴らしい、俺様の翼も完全に復活している! これなら問題無く空を飛べそうだ!」
黒竜王ヘックスは飛行艇グランナスカから飛び立ち、自由自在に空を飛び、ぐるりと大きく一周してから再びグランナスカの甲板に戻ってきた。
そして再び獣人の姿に戻った彼は、ボク達の居る艦橋に戻ってきた。
「ユカ、空を飛んでいて見えたのだが、下の方に大量に蠢いている連中がいたぞ。アレは人間なのか?」
下を蠢いている連中? 一体何者なんだろうか。
ひょっとして、テリトリー公爵の軍勢か!?
ボクは嫌な予感がしたのでグランナスカを低空飛行にし、地面を見下ろした。
すると、そこに見えたのは大量のアンデッドと魔族達の群れだった。
何だアレは!? また魔将軍アビスの仕業なのか?
だが、何か魔将軍アビスのいつものやり方とは様子が違うようだった。
地面を蠢くアンデッドと魔族の群れは北東を目指して移動しているようだった。




