823 黒竜王とユカ達
ユカが力尽きて動けない。
この状態でもし黒竜王ヘックスを倒せていなければ完全にオシマイだ。
仕方ない、今は意識の無いユカの代わりに私がこの身体を動かすしかなさそうだ。
私は疲労困憊で動けない身体をどうにか動かして起き上がった。
今、ユカの意識は完全に眠りについている。
私が目の前を見ると、巨大な魔法陣の中心に黒竜王ヘックスの姿があった。
そしてその彼を覆うように光の柱が天高くつき立つ。
どうやら光自体には質量が無いのでヘックスは言うならば光の柱の中に立っている状態だ。
そして……黒竜王ヘックスを覆っていた光の柱は天高く上り、消え去った。
そこには魔力で満たされた魔法陣が存在し、ヘックスはどうやらその中から動けないようだ。
「やったか!?」
どうやらユカ達はついに世界最強と言われたドラゴンの王、黒竜王ヘックスを浄化する事に成功したようだ。
もう彼の周りには呪われた果実も呪われた地面も黒い邪悪なものは何一つ残っていない。
まあ黒い鱗のヘックスは黒いままだがこれまで浄化されて白くされるというわけではなさそうだ。
「う、ううーん、俺様は一体どうしていたのだ??」
「どうやらようやく目を覚ましたみたいだねェ、この寝起きドラゴン」
「んん? その声、お前はエントラか……久々だな」
黒竜王ヘックスは大魔女エントラ様に親しげに話しかけた。
「どの口がそんな事を言うのかねェ! アンタ妾達を殺そうとしていたんだからねェ!」
「すまない、どうやら俺様は何者かに操れらていたのかもしれん……」
黒竜王ヘックスは今度こそ話が出来るようだ。
彼はエントラに怒られ、申し訳なさそうにしている。
「うーむ。どうやら俺様は何かあの薄闇色のフードを被った少年のせいで自分を失っていたのかもしれんな」
「ヘックス、ソイツに見覚えは無いのかねェ?」
「うむ、残念ながら俺様は長く生きてきたがアイツに会ったのはこの時代だけだ。いくら記憶をさかのぼってもアイツと同じ姿の奴は見たことがが無いな……」
まあそれもそうだろう。
あの薄闇色のフードの男、バグスは私の読みが正しければこの時代に現れた異世界からの来訪者だ。
「それで、ソイツに一体何をされたのかねェ?」
「それが全くよくわからんのだ。俺様が寝ているところにいきなり現れたアイツは、俺様に何か黒い塊を投げつけてきた。それから後の事を俺様は何も覚えておらんのだ……。
どうやら黒竜王ヘックスはバグスに呪いの塊を投げられたあたりから記憶が無かったらしい。
「だがお前達のおかげでどうにか元に戻る事が出来たようだな……礼を言う」
黒竜王ヘックスがボク達に頭を下げた。
どうやら本当にもう暴れ出す事は無さそうだ。
ここに居る全員がもうヘトヘトでこれ以上戦えそうに無いので、助かった。
「しかし全身が痛いな……お前達、本気で俺様と戦ったのだな。まあいい、操られていた俺様にも責任があるからな……」
黒竜王ヘックスは笑いながらこちらを見ている。
そして彼は私を見て感心したようだ。
「おや、そこに居るのはバシラか? いや……少し違うな」
「ヘックス、ここに居るのはバシラの子孫のユカだからねェ。そっちにいるのはテラスの子孫のホームとルーム。まあ二人共、妾の弟子みたいなものかねェ」
大魔女エントラ様が黒竜王ヘックスにボク達の事を説明してくれた。
「そうか、子孫か……。まあ人間の命は短いからな。よろしく頼むぞ、ユカ、ホーム、ルームよ」
「はい、ヘックスさん!」
私はユカのフリをしながら黒竜王ヘックスに返事をした。
黒竜王ヘックスはその場に座り、私達と昔話を始めた……。
「こうやって話すのは数百年ぶりだな……おや? ところでその後ろにいるのは、フワフワか??」
黒竜王ヘックスはサラサさんを見て驚いていた。




