822 黒竜王との決着!
全身ボロボロで翼が切り裂かれたとはいえ、呪われた黒竜王ヘックスは信じられないような再生能力を持っている。
全員が全力で戦ったがこれでもし再生されたら今度こそ全員これ以上戦えないので全滅だ。
それはボク達の全滅だけではなく、世界の破滅を意味する。
――絶対に失敗するわけにはいかない!――
マイルさんの茨の大樹海で身動きできなくなった黒竜王ヘックス目掛け、ボクはマップチェンジスキルを使う事にした!
「黒竜王ヘックスの周りの全ての土地を魔法陣にチェンジ!」
この魔法陣、かつて黒竜王ヘックスを創世神クーリエ・エイータが閉じ込めたのと同じモノだ。
つまり神の作った魔法陣と同じ物をボクは今作っている。
だが出来上がった魔法陣にはまだ全然魔力が満ちていない。
全身から一気にものすごい速さで力が抜けていく。
コレが神の力の再現に使うだけのMPだというのか!
ボクの今の魔法力は世界最高クラスだと言える。
だがそんな魔力ですらこの魔法陣を一つ作るのには相当の力になるのか。
「グォオオオオォォォォォオオッッ!!」
黒竜王ヘックスが魂を軋ませるような凄まじい叫び声で吠えている。
どうやらこの魔法陣の力が効いているようだ。
魔法陣の魔力はまだ半分にも達していない。
黒竜王ヘックスの周りにまとわりついていた黒いオーラがどんどん上空に吹き上げられ、消滅していく、どうやらマップチェンジは成功したようだ。
黒竜王ヘックスは苦しそうに暴れようとするが……全身の骨を粉々に砕かれ、また全身を太い大量の茨に絡み取られて動くにも動けないようだ。
どうやら呪いの再生能力もこの浄化の魔法陣の力でかき消されているようだ。
黒竜王ヘックスを覆っていた黒いオーラはほとんどかき消され、真っ赤になっていた彼の目が青い正常な色に戻っていく。
「ググウウウウオオオオウウウウうううぅぅううおおおっ!」
どうやら黒竜王ヘックスも苦しそうだが、ここでやめるわけにはいかない。
ボクはこの魔法陣に魔力を注ぎ込めるだけ注ぎ込んでいる。
そうしないと魔法陣の効果が呪いで上書きされてしまうからだ。
だが流石にボクの魔力も限界で尽きかけていた……。
そんなボクの前にエリアさんが駆け寄ってきた。
「ユカ、私の力を、受け取って!」
「エリア……さん?」
なんと彼女はボクの前に来て、キスをしてきた。
魔力は口移しが一番相手に伝えられる方法だと以前誰かに聞いた事がある。
エリアさんがボクにキスをすると、尽きかけていた魔力が再びみなぎってくるのを感じた。
「この……力なら! 黒竜王ヘックスに勝てるっ!」
みんながボクを見守ってくれている。
あと少しだ、これであの黒いオーラを全てかき消す事が出来れば黒竜王ヘックスを浄化する事が出来る!
「うぉおおおおおおっ! ボクの全力を、注ぎこんでやるっ!!」
白い光が辺り一面を覆った。
どうやら魔法陣全部に完全に魔力が満ちた状態になったようだ。
魔法陣から白い光の柱が何本も黒竜王ヘックスを貫き、黒いモヤを全て天空高くに吹き上げた。
「でやあああああっ!!!!」
エリアさんの魔力も全部注ぎ込み、ボクはもう立っていることも出来ずにその場に力尽きて倒れた。
横になったボクに見えたのは……一つの巨大な光の柱の中に見える黒竜王ヘックスのシルエットだけだった。
「ぐぉおおおおお! 何だこの光はぁぁぁ!?」
ボクが最後に聞いたのは黒竜王ヘックスの声だった。
――そして、力尽きた僕はその場で完全に動けなくなってしまった。――
これで、本当に勝てたのだろうか……?
ボクは薄れゆく意識の中で光の柱が消えるのを……見た。
誰かの声が聞こえる……でも、もう動けないや……。
みんな、後は頼んだ。
そして、ボクは完全に意識を失った。




