820 吐き出された黒い光のブレス
――ダメだ! ここで下手にマップチェンジを使ったとしても、あの黒竜王ヘックスの黒い光のブレスは避けられない!
もしマップチェンジでヤツの足場の高さを変えたとしても首の角度を変えられたそれだけで王都は灰燼と化する。
だからといってあのブレスを止める方法も無ければ、魔法のバリアでもアレを塞ぐのは不可能。
一体どうすればいいんだ!!
「くっ、まさかヘックスのバカがまた呪われてあんな攻撃をするとはねェ!」
大魔女エントラ様が黒竜王ヘックスを睨みつけ、叫んでいる。
そういえば、大魔女エントラ様の先程の魔法、アレは空間を操る彼女にしか使えない魔法だ。
もし黒竜王ヘックスを転移させたとしても、彼が魔力のキャンセルを使えるとしたら結局転移させられないままブレスが吐かれてしまうかもしれない。
つまり、黒竜王ヘックスを対象に魔法を使うのは魔法無効化というデメリットがあるかもしれないのだ。
そうなると黒竜王ヘックスには魔法は使えない。
だがあのブレスをどうにかしなくては黒竜王ヘックスによって王都が消滅、壊滅してしまう!
その時、ボクにソウイチロウさんがアドバイスを出してくれた。
『ユカ、大魔女エントラ様なら異空間へのゲートが開けるんだよな。それならその異空間にブレスを全部吸い込んでしまえばっ!』
『なるほど! そういう事ですか!』
流石はソウイチロウさんだ。
確かにそれなら大魔女エントラ様の魔力であって黒竜王ヘックスへの魔法ではない。
だから効果はあると思う。
だが時間が無い! この事を早く彼女に伝えなくては!
「エントラ様! お願いがあるんです!」
「何かねェ、もう時間が無いから手短に頼むねェ!」
大魔女エントラ様にも余裕はなさそうだ。
これは早く伝えなくては。
「エントラ様、異空間のゲートを開いてもらえますか! そこの中にあのブレスを全部吐かせるんです!」
「そう、そうだねェ! それなら王都にブレスが吐かれる事も無いねェ、流石はユカ、それじゃあやってみるねェ!」
大魔女エントラ様が高く杖を掲げ、魔法を詠唱した。
「異空間の扉よ! ここに姿を現せ!」
だが魔力干渉の影響で異空間への扉は不完全な形で開いてしまった、この先が一体どこにつながっているのかはわからない。
下手すれば別の場所が壊滅する可能性もあるが、王都を守る為には仕方が無い!
もう別の場所への門を開くだけの時間は無いのだ!
「グォオオオオオオッ!!」
ついに黒竜王ヘックスの黒いブレスが吐き出されてしまった!
だがその黒い光のブレスは間一髪で大魔女エントラ様の開いた異空間への扉の中に全て吸い込まれて行く……。
――成功だ、王都へのブレス攻撃は避けられた……。
そして黒いブレスを吐き終えた黒竜王ヘックスは流石に大半の魔力を使い果たしたのかもう動く事もやっとの状態だった。
だがあの黒い呪いのオーラがある限り、また黒竜王ヘックスが力を溜めてあの黒いブレスを吐き出してもおかしくない。
今度は流石に異空間へのゲートでもあの黒いブレスに耐えきれる保証がない。
それに魔力的にも大魔女エントラ様がもう限界だ。
だからといってルームさんがその代わりを出来るわけでもなければアンさんが代わりを出来るわけでもない。
あの異空間を開く魔法は大魔女エントラ様だけにしか使えない魔法なのだ。
エリアさんは浄化の力を使い果たし、今魔力を再び貯えるまでにはかなりの時間がかかる。
こうなったらボクしかあの黒竜王ヘックスと戦えるのはいない!
勝てる保証はハッキリ言ってない、それでもボクはアイツを倒さないといけないんだ。
ボクの取れる方法はただ一つ、アイツの足元をマップチェンジするだけだ!
この賭けがハズレならここに居るみんなが全滅だ。
それでも、ボクがやるしかないんだ!




