810 黒竜王とバグス
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ここは薄暗い洞窟の中。
そこには巨大な黒い竜が眠っていた。
この竜こそ――黒竜王ヘックス――そう、世界の全てを敵に回し戦った巨大な黒いドラゴンだ。
彼は半分寝ていた。
半分というのは……一度彼が起きる程の大きな衝撃が襲ったからだ。
その衝撃は、ユカが空帝戦艦アルビオン内部から聖剣エクスキサーチを使って放ったものだ。
普通なら山すら砕く程の巨大な衝撃は、深い眠りについていた黒竜王ヘックスの眠りを妨げた。
そして眠りを妨げられた黒竜王ヘックスは衝撃波の放たれた方向目掛け、黒い光のブレスを放った。
それは起きがけの本気ではない力だったが、古代文明で作られた伝説のオリハルコン製の空帝戦艦アルビオンを一瞬で消滅させるほどの力だった。
――伝説の黒竜王ヘックスとはそれ程の全てを超越した力を持つドラゴンなのだ!
だが彼は煩わしい相手を消し去ったと思い、再び眠りについた……はずだった。
「へェ。これが伝説の黒竜王ヘックスの巣かァ。ハハハ、寝ているみたいだねェ」
なんと、ヘックスの巣に姿を現したのは、薄闇色のフードの男、バグスだった。
バグスは黒い闇の塊を作り出し、眠っているヘックス目掛け放った。
ヘックスの鱗が黒い闇に浸食されてダメージを受けていく。
「ン……! 誰だ、俺様の眠りを邪魔するのは!?」
「やァ。おはよう。気分はどうだいィ?」
「良いわけが無かろうが! 俺様の眠りを妨げるとは……キサマ死にたいようだな!」
ヘックスが黒い光のブレスを口から放った。
その光は一瞬でバグスを包み込み、消滅させた……はずだった!
「フン、消え去ったか。俺様を起こそうなどとするからだ」
「フハハ、面白いねェ。これが世界を敵に回した伝説のドラゴンの力かァ」
「な、何だと!? 俺様のブレスを受けて生きているだと!?」
黒竜王ヘックスはバグスに対して驚いている。
それは彼が初めて感じた感覚とも言えた。
「キミはこの世界では最強かもしれない。でもねェ、世界は一つだけじゃないんだよォ。他の世界の力を持っているボクの前には……意味がないんだよォ」
バグスは黒い闇の塊をヘックスに向けて放った。
ヘックスはその塊を吹き飛ばそうとしたが、黒い塊はじっくりと押し迫り……黒竜王ヘックスを飲み込んでいった。
「そ、そんな……俺様のブレスが、かき消されるだと!?」
「フハハハハ、さあ……ボクの力、受け入れるんだねェ」
黒竜王ヘックスの身体の中に黒い闇が吸い込まれて行く。
吸い込まれた闇はヘックスの身体を覆った。
「グガァアアアアアアッ!」
「おやおやァ。どうやらボクの力を受け入れたみたいだねェ。どうだい、圧倒的な闇の力はァ」
「グオオオオオッッ!」
黒竜王ヘックスが理性を失いつつある。
「キ……キサマ、何を……シタ?」
「キミの理性のタガを外させてもらっただけだよォ。かつて世界を敵に回して戦った黒竜王、その力を発揮してもらうよォ」
黒竜王ヘックスが理性を失い、辺りを破壊し始めた。
「おっと、このままここにいたらボクも危なそうだなァ。それじゃあボクはやる事があるからこの辺りで失礼するよォ」
そう言ってバグスは姿を消した。
そこに残ったのは、理性を失い暴走する世界の脅威、――かつて世界を敵に回して戦った伝説の黒竜王ヘックスだった。
「グガァアアアアァアオオオン!」
ヘックスの住む山をとどろかせたその咆哮は、山を登るユカ達の耳にも届いていた。
この山を舞台に、伝説の黒竜王と伝説の英雄達の子孫や創世神達の決戦が始まろうとしている!
ユカ達は山を登りながら黒竜王ヘックスとの戦いの事を考えていた。
そんな彼等を黒い光のブレスが襲った!!
「何だ!? これは、みんな、伏せるんだ!!」
ユカは仲間に向かって叫んだ。




