804 テリトリー公爵の影
皇帝グランドがエリアさんを紹介した。
それも彼女を創世神クーリエ・エイータの化身としてだ。
多くの人達がエリアさんを見て頭を下げたり拝んだりしている。
最初は少し戸惑っていたエリアさんだったが、人々に悪意が無い事が分かると笑顔でみんなに応えた。
そんな彼女の笑顔を見てさらにみんなが歓声を上げる。
この国はエリアさんを中心に一つにまとまっていた。
皇帝グランドはそんなエリアさんを見て、自らも頭を下げていた。
皇帝グランドが支配する実力主義のグランド帝国は、創世神クーリエ・エイータを信仰する国家として生まれ変わったのだ。
だからといってこの国の良い部分も変わってしまったわけでは無い。
身分に関係なく実力のある人を採用するという国の方針は変わらず、この国の流れが変化してしまったわけではなさそうだ。
クーリエ・エイータを国の神とする、それを伝える知らせが皇帝グランドによって帝国全土に配付された。
ボク達は救国の英雄として宮殿で何不自由ない待遇を受けていたが、それも三日もすると何だか飽きてきた。
「どうもここにずっといると身体が鈍ってしまいそうだよな」
「そうですね、騎士団の訓練くらいだと何の準備運動にもならないです」
「騎士団って、私でもできる程度の訓練で良いのですか?」
いや、ルームさん……貴女の能力はレベル30相当の男にも匹敵するので普通の人だとあの訓練はとてもじゃないけど根を上げるようなもんですって。
とはいえ、このまま宮殿に居てもあの魔将軍や黒竜王ヘックス、後はあのテリトリー公爵の件が解決するわけでは無い。
特に逃げ出したテリトリー公爵の事が気になる。
何だか嫌な予感がするんだ……。
だがその予感は悪い形で当たったようだ。
ボク達が数日宮殿で過ごしている間に、世間では恐るべき事が起こっていた。
宮殿に誰かが血相を変えて駆け込んできた。
「お、おい! 大丈夫か!? どうした」
「怪我の手当てなどどうでも良い、おれには伝えないといけない事があるんだ!」
大怪我をした男は皇帝グランドに伝えるべき事があると言って、怪我の手当てをしようとする兵士を追い払い、足を引きずりながら宮殿の奥を目指した。
皇帝グランドの待つ部屋にはエリアさんがいた。
彼女は大怪我をした兵士に手をかざし、その怪我を完全に治療した。
「こ、これが創世神の化身のお力なのか……私は伝えたい事があったのです。皇帝陛下、テリトリー公爵が……反旗を翻しました!」
「何だと! テリトリーは空帝戦艦と共に消えたのではないのか!?」
どうやらテリトリー公爵が生きていて、皇帝グランドに逆らい軍を結集したらしいのだ。
確かにテリトリー公爵はあの空帝戦艦から逃げ出し、命が助かったのは分かっている。
だが、公爵派貴族の大半はあの空帝戦艦と共に空に消えたはず、それなのに皇帝グランドに逆らうだけの軍をどうやって用意したのか……。
――まさか! 魔将軍アビス!?――
だが、アビスは大魔女エントラ様の力で異空間に閉じ込められたはず。
そうなると……テリトリー公爵に力を与えたのは……ゲート!?
『ユカ、その可能性もあるだろうが、もう一人いるのを覚えているか?』
『もう一人? それは……』
『バグス……、彼ならば力を与える事も出来る!』
そうか、そういえば魔将軍以外にもあのバグスという謎の少年。
彼は確かに人間を魔族化する能力を持っている。
そうか、テリトリー公爵に力を与えたのがバグスなら十分可能性はあり得る。
こうしてはいられない、早くテリトリー公爵を阻止しないと!
「皇帝グランド、ボク達はテリトリー公爵を倒しに行きます!」
ボクは宮殿に居るみんなを呼び出した。
これからボク達はテリトリー公爵を倒す為に戦場に向かう!




