802 王都での休息
グランド帝国の王都に活気が戻ってきた。
ボク達は皇帝グランドの戒厳令としてこの王都の人間が全員アンデッド化していた話には触れない事になった。
まあ下手にそんな話をしても誰も信じないし信じたくないだろう。
だからボク達はあくまでも空帝戦艦アルビオンを倒した事、南方に大量に出現した魔族の大軍勢を倒した事、巨竜城塞を破壊した事等の功績を讃えて国賓として招かれたという形になっている。
ボク達は救国の英雄として皇帝グランドに勲章を頂くためにここに来たという話になっていた。
まあそれでこの国が落ち着くならそういう道化も悪くはないかもしれない。
ボク達は全員が宮殿や王都の人達に歓迎され、どこにでも入れる許可証を皇帝グランドに貰った事で自由に行動している。
エリアさんは教会で大勢の人達に囲まれ、聖女、創世神の使いとして手厚く歓迎されていた。
ホームさんやルームさんは宮殿内で騎士団や、良識派貴族とコンタクトを取り、この国の未来について話し合った。
大魔女エントラ様とアンさんは食べ物屋巡りで店の人が驚くくらいに大量の食事をし、その姿を見る為に大勢の人が集まってきている。
マイルさんとカイリさんはこの王都での流通経路などを考えた上で、商会の今後の取扱品目や貿易について商人ギルドの人達と話し合いをしている。
フロアさんとサラサさん、それにシートとシーツの双子の狼は、宮殿外部の王族や貴族だけが入れるはずの狩猟場に行き、森の探索をしているようだ。
さて、ボクは気になっていた所があるので、宮殿の皇帝の間の壁近くの床を調べてみる事にした。
――確か、ここにあの床貼り職人のタイルさんが自分が貼った床の板の所に名前を書いたと言ってたはず。
えっと……確かこの辺に、あった!
そこの床板の隅には――クイノレ――と書かれていた。
あーあ、タイルさん、字を間違えちゃってるよ。
まあ、タイルさんの言っていた事は本当だったんだな。
ボクはその文字を見てクスっと笑った。
――しかし、あの床貼り職人として全く使えないと言われたボクが、数万の魔族を倒し、古代の破壊神を倒し、更に古代の負の遺産空帝戦艦アルビオンに世界最強の戦士だったパレス大将軍まで倒すとは……。
更に一番最近では常人が絶対に倒せない強さの巨竜城塞も破壊した。
ひょっとして今のボクって、世界最強レベルなのかもしれない。
だが、世界が平和になる為には、魔将軍を倒し、魔王ゾーンも倒さなければいけない。
また……逃げたテリトリー公爵も行方が分からないとはいえ、まだ生きている。
その上、世界の敵とも呼ばれた最強の黒竜王ヘックス、彼もまだきちんと眠りについたとは言えない。
そう考えると世界にはまだまだ問題が山積みだ。
ここにいるのもあと少しくらいにして、ボク達はまず逃げたテリトリー公爵を探し出さないと。
「ユカ様。今晩皆様を歓迎するパーティーを盛大に行います。是非とも参加してくださいませ」
「う、うん。ありがとう」
ボクはメイドの人に今日の夜のパーティーの話を聞いた。
どうやら皇帝グランドが救国の英雄を讃えた歓迎会を開催するとの話だそうだ。
主賓はどうやらボクという事なのだが、どうも緊張してしまう。
『ユカ、もしパーティーに慣れていないのなら、私が代ろうか?』
確かにソウイチロウさんならそういう事態には慣れているのかもしれない。
だが、それに頼り切っているとボク自身が成長できない!
『いいえ、ソウイチロウさん。ボクが一人でやり遂げて見せます』
『そうか、まあ難しい……これは無理だ、と思ったらいつでも言ってくれ、大抵のアドリブには慣れているからな』
まあソウイチロウさんがアドバイスしてくれるならボクも安心だ。
そしてその日の晩、ボク達を歓迎するパーティーが盛大に開催された。




