800 皇帝と創世神
「まさか……余の愛するアリス皇后が魔族だったとは……」
「酷な事を言うようで悪いけど、その愛も幻想だったとしたらどうかねェ?」
「な、一体どういう事だ!?」
大魔女エントラ様が厳しい目で皇帝グランドを見た。
「昔から、この世界の国を滅ぼしてきた女がいる。それは時に名前を変え、国を変え、いつの時代も存在したんだねェ」
「ま、まさか……大魔女エントラよ、余の妻であるアリスもその一人だというのか!?」
大魔女エントラ様がため息をついている。
「シュラウド王国の悪妃エリス、リオ公国の悪女アビシア、東方の崑大国の魔女阿美……全ては同じ魔族、魔将軍アビスが姿を変えたものだったんだねェ」
コレを聞いた皇帝グランドは驚いていた。
「それは……全て戦乱や凶作、民衆の蜂起で滅びた過去の大国の名前ではないか!」
「そう、魔将軍アビスは自らの欲望の為に全ての国の王に取り入り、国内を混乱させて幾多の国を滅ぼしてきた魔女だからねェ……」
「余が……魔族に操られていたのというのか……」
流石の皇帝グランドも、この事実を受け止めるのは相当の覚悟が必要だったようだ。
「あの女、ヒモトの国にも現れて戦乱を巻き起こしおったからな」
アンさんが憎々しい感じでつぶやいた。
「ふ、ははははは、笑うがよい。この滑稽な余を。余は自らの強さに過信し、国の実態が見えていなかった愚か者だ。民無き宮殿がそれを示しておるわ……」
今の皇帝グランドは、これまでの覇気を失ったただの初老の男に見えた。
そんな彼に手を差し伸べたのは、エリアさんだった。
「大丈夫です、貴方は自らの力で人々を救おうとしました。その気持ちはよく伝わってきます……」
「貴女は……一体」
ここで大魔女エントラ様が異界門を開き、アンデッド化した宮殿の住民を全員宮殿の中庭に召喚した。
「こ、これは!?」
「アンタのとこの宮殿に居た奴らだねェ。とりあえず面倒だから預かってたけど、後はエリアちゃんに任せようかねェ」
「はい、わかりました。エントラ様」
エリアさんが祈りを捧げると、宮殿の全体が温かい光に包まれた。
「こ、これは……まさか、この少女は、いや、このお方は創世神なのか!」
「さあ、命の尊厳を奪われた者達よ、今こそ命の灯をあなた方に与えましょう!」
エリアさんのスキルは、アンデッド化した人達を全員人間に戻す事が出来た。
「あ、あれ? 俺、確かあの子爵令嬢に……」
「わたし、あの部屋に行ったっきり記憶が無いんだけど」
「何だか嫌な夢を見ていたような気がするけど、思い出せない」
目の前で奇跡を目撃した皇帝グランドは、子供のように目を輝かせていた。
「これは、奇跡だ……! 余は生まれ始めて神の奇跡を目にした。今まで余は自らの力だけを頼り、一度とて神にすがった事は無かった。だが、これは間違いなく神の与えた奇跡だ!」
皇帝グランドがエリアさんに深々と頭を下げていた。
「創世神、クーリエ・エイータ様、ならびにそのお仲間の皆様。余はこの国を救ってくれたそなた達に心より感謝を申し上げる。是非ともお礼をさせて頂きたい」
「い、いいえ。これは創世神である私が成すべき事。魔族に蝕まれたこの国を救わなくてはなりません」
「おお、なんと素晴らしい! この皇帝グランド、命の限り貴女の為に力を尽くしましょう!」
皇帝グランドはエリアさんへの忠誠を誓い、彼女に頭を下げて膝をついた。
それを見ていた大魔女エントラ様とアンさんが微笑んでいる。
「どうやらあの皇帝ならこの国は安泰そうだねェ」
「そうじゃな、あやつはミクニのホンド王と同じ器を感じるわい」
世界最強の二人が認めた皇帝、彼ならばこの国を正しい方向に導いてくれるのだろう。
「創世神クーリエ・エイータ様、是非とも来賓としてこの国にお留まり下さい。盛大な歓迎会を催させていただきます」
そしてボク達は皇帝グランドの主催する歓迎会に招待された。




