798 グランド皇帝とゴルガ軍国
普通一般的に王都に来るためには街道を通る事が多い。
だが昔はこの王都、海路でしか到着出来ないと言われていた。
それは、王都と他の町を繋ぐ道は、黒竜王ヘックスが住んでいると昔から言われていた山岳地帯を通らなくてはいけなかったからだ。
ボク達は飛行艇グランナスカで王都にやって来たので海路でも街道でもない道を通ったが、普通の人が王都と他の町を行き来するには街道を通るのが普通だ。
だが、この街道、昔は存在しなかった。
この街道を作る計画を立てたのがボクの目の前にいる皇帝グランドなのだ。
「余にはかつて多くの敵がいた。大半はテリトリー公爵の息のかかった連中だ。また、余の兄弟も余を王にさせまいと海路を断ったり色々と妨害をしてきた……」
グランド皇帝が昔のことをボクに語っている。
「だが、余はかつて伝説の英雄バシラが黒竜王ヘックスを味方にしたという山岳の事を知っておった。常人は誰もが恐れて近寄ろうとはしない場所だ。だが余はあえて、この山岳を仲間達と踏破し、ここが人の通れる道だと確信した」
その時の仲間の一人が父さんだったというわけか。
「そして余は付いて来てくれる仲間達と共に、この山岳地帯に誰もが通れる街道を作る事を計画した。その計画には多くの貴族に虐げられていた者達が協力し、余は黒竜王ヘックスの住む山の横を通る街道を切り拓いたのだ」
それが、このグランド皇帝の躍進につながったのか!
「海路を塞いだ事で油断していた貴族共は余の軍団の前に次々と倒れていった。それは余がゴルガの遺産を使ったことも原因の一つであろう」
ゴルガ! 太古の昔に滅び去った古代の帝国の名前だ。
「余の母上はゴルガの民の末裔だった。余はゴルガの者としてこの世界を掌握する、その想いで次々と敵を打ち倒したのだ。グランドとはゴルガの王族の名前、古の支配者の名前なのだ!」
まさか、グランド皇帝がゴルガ軍国の末裔だったなんて!
「――ゴルガの前にゴルガ無く、ゴルガの後にゴルガ無し――余はゴルガの王、すなわち皇帝なのだ! 全ては武力の前にひれ伏し、強き者が生き残る世界となる!」
「でも、陛下。それでは何故陛下は公爵派貴族を敵視するのですか? 彼等は生まれながらの強者の立場のはずですが……」
ホームさんがグランド皇帝に質問をした。
「ほう、ゴーティの息子か。父親の幼い頃にそっくりだな。よかろう、何故余がテリトリー公爵どもを敵視するか、それは……奴らが弱者だからだ!」
え? まあ皇帝陛下からすると彼等も立場的に弱者なのだろうけど……。
「不思議そうな顔をしておるな、余の言う弱者とは生まれながらの物では無く、生きる事を怠った者の事を言うのだ! テリトリー公爵派の貴族どもは生まれながらの立場にかまけ、自らを鍛える事の努力を放棄したブタだ! 余の最も嫌うのは生まれにかまけ、一切の努力をせず他者を虐げた者達、つまりはテリトリー公爵の手下どもだ!」
なるほど、確かにその理屈だとテリトリー公爵の一派はグランド皇帝にとっての敵そのものと言えるわけだ。
「それ故に余は自らを鍛え、また……古代ゴルガ文明の遺跡から先祖の遺産を取り戻したのだ。これこそが余の力の根幹と言えよう!」
これがグランド皇帝という人物なのか……。
「して、ウォールの息子ユカよ。ここに来たのは何用か?」
「皇帝陛下、この宮殿は全て……魔将軍アビスの配下の者達によって住民がアンデッドにされております!」
「何!? まさか……そんなわけが……!」
「でも残念ながらそれが本当なんだねェ」
ボクの後ろから大魔女エントラ様が姿を現した。
「ま、まさかその姿……お前は伝説の大魔女……エントラなのか!?」
「あら、どうやら妾の事を知っていたようだねェ」
大魔女エントラ様が不敵な笑いをグランド皇帝に見せた。




