797 グランド皇帝の昔話
「余は寛大な皇帝だ。だが、いきなり申し出も無く現れた者達を歓迎するほどのお人好しでも無い。ここに来たからにはそれ相応の覚悟があるのだろうな!?」
これがこの国を王国から一代で帝国に作り上げた――ユリシーズ・ヴィルトゥスフルーメン・グランド皇帝――なのか!
ヴィルトゥスフルーメンとは、この国の王家の名前だ。
小国に過ぎなかった初代国王は、誰もが恐れる山を避け、海路だけが命綱だった小国、ヴィルトゥスフルーメン王国を一代で海洋都市国家に成し遂げた人物
それ以降、王国は海路を使い、多くの富を手に入れ、いつしか巨大な国になった。
だが、国が大きくなるという事は、それだけ国が腐敗する事も意味する。
貴族達は利権と自己保身、虚栄心に捕らわれて腐敗し、民衆を弾圧する悪徳貴族が蔓延するようになった。
それに輪をかけたのが魔族の存在。
魔族は腐敗貴族に取り入り、どんどん人間を苦しめる方法を次々と考案しては腐敗貴族達に実践させた。
この状況は悪しき伝統として伝わり、民衆達には貴族に対する憎悪と諦めの気持ちが蔓延するようになった。
そんな国を救った英雄が――バシラ・カーサ――。彼とその仲間達は魔王ゾーンを倒し、腐敗貴族達をけしかけていた魔族を尽く打ち倒してこの国に光を取り戻した。
その際に彼の仲間だった者が世界一の大魔女エントラや世界の敵と呼ばれた黒竜王ヘックスといったドラゴンだったので、誰一人としてバシラに歯向かおうという者がいなかったのも事実。
そうしてこの国は平和を取り戻した。
だが、腐敗貴族達はそんな国の中央部から逃れ、郊外で公爵派と呼ばれる腐敗貴族の派閥として生き残った。
その中心人物と言えたのが――テリトリー公爵家――という事になる。
テリトリー公爵派は国の経済や政治、流通の大半を仕切り、ヴィルトゥスフルーメン王国を好き放題にした。
そんな中、一人立ちあがったのが皇太子だったユリシーズ・グランド王子だった。
グランドは彼の母親の名字だ。
皇帝の妾腹だった彼は、他の王位継承者を実力で倒し、この国を手に入れた。
その際に彼が名乗ったのが皇帝なのだ。
古い王国の王ではなく、新たなる国、帝国の皇帝として立ち上がったのがボクの目の前にいるグランド皇帝だと言える。
「どうした、何か弁明する事は無いのか……」
「皇帝陛下、ご無礼をお許しください。ボクは、ユカ・カーサと申します」
「カーサ……ふむ、お前が英雄カーサの息子か……、確かに父親によく似ておる」
皇帝陛下は父さんを知っていたのか。
「陛下は、父さ……ボクの父を御存じなのですか?」
「知っているも何も、お前の父無しに余はこの国を手に入れることは出来なかっただろう……」
父さんは一体何をしたというんだ!?
「余、大将軍パレス、ゴーティ騎士団長、そして……英雄カーサ。余はこの四人と共にこの腐敗した国を立て直すと決めた。それは、余の師であるヴォルケーノ大臣の教えを受けたからだ……」
ヴォルケーノ大臣、一体どんな人物だったのだろうか。
「ヴォルケーノ大臣は余にこの国を取り戻した英雄、バシラの事を教えてくれた。おとぎ話ではない彼の知る限りの事全てをだ。そして余は誓った、この国を腐敗しきった貴族共から必ず取り戻すと」
「その戦いに……ボクの父が参加していたわけなんですね」
「そうだ、そして余は……この戦いに勝利する為、大きな賭けに出た……それは、初代国王から誰一人として成し遂げなかった山岳の踏破だ」
その話は父さんに聞いた事がある。
確かその山って……! 黒竜王ヘックスの眠る山だっ!!
そうか、皇帝陛下の偉業って……その黒竜王ヘックスの眠る山を通るルートでの王都奪還だったんだ!
「この山岳の踏破こそが、余の覇業の礎となったのだ」




