794 宮殿に向かおう!
エリアさんの力は二度と人間に戻れないはずのアンデッドになってしまったポルタ兄さんを普通の人間に戻した。
凄い、これは人間技どころか、高レベルの司教や法王と呼ばれる人でも決して出来ないスキルだ。
これが創世神の半身を取り戻したエリアさんの力だというのか。
「ユカ、いきなり久々に会っていきなり兄に向かってアンデッドよばわりって、冗談でも言って良い事と悪い事があるぞ」
ドンドン!
「おーい、お隣さん、煩くて寝られないんだけどー」
「あ、ああすまない。実は遠くから家族が来ててさ」
ポルタ兄さんが部屋のドアを開けようとした。
「兄さん、危ないっ!」
ガチャ。
ドアが開いた瞬間、隣人の男が部屋に入るなり、兄さんの腕に噛みついた。
「ガ。アガガガアアアアアァッ!」
遅かった! もう既にこの街の大半はアンデッドになってしまっているんだ!
隣人のアンデッドに噛みつかれた兄さんが再び肌の色を失い、アンデッドに変わっていく。
いくら何でもこの状態から元に戻せるわけが無い……今度こそ兄さんをボクが殺さなければいけないのか……。
だが、エリアさんはそんな兄さんに触れ、何か呪文を唱えた。
すると、アンデッドになりかけていた兄さんが再び浄化され、人間の姿に戻った。
また、その光に触れた隣人の男もゆっくりと正気を取り戻し、人間に戻っていった。
「ユ、ユカ……おい、一体、一体どうなってるんだよ!?」
「この街はもうアンデッドに支配されているんだ。エリアさんはそんな彼等を元に戻す唯一の力を持っているって事かな」
「し、信じられないぜ……でも、おれがアンデッドだったってのも信じるしかなさそうだな」
「ユカ様のお兄様、ここは僕達に任せてください」
「ホーム様……。わ、わかりました」
戦う力のないポルタ兄さんは物陰に隠れた。
そしてボク達が窓から外を見てみると、そこには普段と変わらない生活をしている街の人達の姿があった。
『ユカ、どうやらこの街をアンデッドの街にしてしまったのは、間違いなく魔将軍アビスだろう』
ソウイチロウさんがボクに話しかけてきた。
『何故なら生前と同じ形で生活させるだけの知力を持たせたアンデッドを作れるとしたら、相当の魔力量の持ち主で無ければ難しい。また、アンデッドの感染は感染先の知力の劣化が当然伴うものだ。だが、このアンデッド達は感染した事も気づかずにそのまま普段と同じ生活をしている。これは……血液感染ではない空気感染の可能性が高い』
空気感染!? それじゃあボク達も……!?
『だがこの空気感染、魔力のレベルの低さに比例しているようだな、だからユカ達が感染する事は無いだろう。だが……知らないうちにアンデッドになっている街の人達は自らがアンデッド化しているなんて気が付かないのがこの空気感染の恐ろしさだ』
確かに、ポルタ兄さんは自分がアンデッドだったなんて事、まるで覚えていなかった。
それなら、隣人が何故兄さんに噛みつこうとしたのだろうか?
『ソウイチロウさん、それではなぜ隣人の男は兄さんにいきなり噛みついてきたんですか?』
『それは、おそらく臭いだろうな』
「臭い?」
ソウイチロウさんはこの状況がどういう状況か理解しているようだ。
『そう、アンデッドの鼻が生者の臭いを嗅ぎつけたのだろう。アンデッドにとって最高の食事は生者の血肉だからな』
だからアンデッドから元に戻った兄さんが隣人に噛みつかれたというわけか。
『ソウイチロウさん、それではこの街を元に戻す事は……』
『そうだな、エリアの力に頼るしかなさそうだな』
ボク達は兄さんの家にカギをかけ、外に出て様子を探る事にした。
「とりあえずここはそのままにしておいて、宮殿に向かおう!」
「そうですわね、ここがこれだと、宮殿もどうなっているのか」
ボク達は急いでグランド皇帝のいる宮殿を目指す事にした。




