792 死者たちの都??
三匹のアビスの眷属は這う這うの体で逃げ出した。
まああの魔将軍アビスがいない今、アイツらが自由には動けないだろう。
ボク達は巨竜城塞を破壊し、辺りを見渡した。
辺りには砕け散った城塞の瓦礫と巨竜の残骸、それに踏み潰された街の瓦礫や肉塊が辺り一面に散らばった燦燦たる有様だった。
「酷い……酷すぎる」
ボク達が巨竜城塞を倒したとはいえ、失われた物が多すぎる。
また、これらの被害者達は誰一人として死体を埋葬もしてもらえない。
ボク達が彼等を埋める事や火葬する事は可能だが、それで彼等彼女等の魂が救われるわけでは無い……所詮ボク達は人間だ。
「Λ§Ψ§Σ……」
エリアさんが何かの呪文を唱えだした。
そうか、彼女ならばこの報われない人達を救う事が出来る。
彼女は創世神――クーリエ・エイータ――の半身だ。
エリアさんが祈ると、辺りに大きな光があふれ出した。
そして、光は瓦礫、肉塊の全てに降り注ぎ……踏みつぶされて死亡した全ての者達を照らし、光に照らされたモノは小さな光の粒となり天に昇っていった。
これが創世神の力……。
エリアさんは悲しそうな、でも慈愛に満ちた表情で全てのモノを見つめた。
エリアさんの力は失われた命を救い、多くの魂が天へと還った。
彼女がいなければ、この踏み潰された多くの犠牲者は誰にも弔われる事無く、朽ち果てて報われない魂は悪霊となり、さらに多くの者達を苦しめただろう。
これ以上魔将軍や魔族の犠牲者を増やすわけにはいかない!
ボク達は飛行艇グランナスカに乗り、王都を目指した。
何か物凄く嫌な悪意を感じる。
ボク達は王都に到着し、その悪意の正体が何かを調べようとした。
……だが、王都は何も変わった様子はなく、人々は普通の生活をしている。
あれ? 何も無いのか……?
だが、何か違和感を感じる。
ボク達は街の人達に話を聞くことにした。
「すみません、何かあったんですか?」
「……あ? ああ、特に何も無いよ、この都は平和そのものだね」
住民の目の焦点が合っていない、何か感じた違和感はその為か。
「平和って……このすぐ近くの村や町が巨大な竜の城に踏みつぶされたのを知らないのか?」
「なんだいそれ、ほらほら、仕事の邪魔をしないでくれよ」
都の住民は近隣の町で起きた惨劇の事をまるで知らない、興味が無いといった様子だ。
普通ならこんな話を聞けば驚いたりするはずなのに。
ボク達は他の住人にも話を聞いたが、全員がまるで反応が同じような態度だった。
まるで……統一された何かの意思で動かされているようなものだ。
一体性はあれども、本来の人間の個々の意志が見えない。
まるで……洗脳でもされているようだ。
「エントラ様、何かこの街おかしくないですか??」
「そうねェ。何か嫌な悪意を感じるねェ」
どうやら大魔女エントラ様もこの街に違和感を感じているようだ。
この街はあまりにも不自然で、作り物にしか見えない。
何と言うか……住民に生気が感じられない。
まるで……死人を操っているようだ。
――まさかっ!?――
「みんな、気を付けろ。ここにいる人達は人間じゃないかもしれない!」
「え? ユカ様??」
「ユカ、やっぱりそう思うかねェ。これは大規模なネクロマンシーの力だねェ」
大魔女エントラ様はこの異常の正体に気が付いていたようだ。
ネクロマンシー、つまりは死人にかりそめの命を与えてアンデッドにする魔術だ。
つまり……この都は既に……全員死者にされている!
そんな、この街にはボクの兄さんがいるはずなのに!
ボクは何かとても嫌な予感がして兄さんのいる家に向かった。
手紙のおかげで住所は分かっている。
兄さんは街の外れの職人街に住んでいるはずだ。
ボクは兄さんの家を目指して走った。
兄さん、無事でいてくれ!




