789 魔将軍アビス対大魔女エントラ
大魔女エントラ様と魔将軍アビスが空中で向かい合っている。
「人間、お前ごときが魔族の長であるアタシちゃんに勝てるとでも?」
「まあ、負ける気はしないねェ」
「戯言をっ!」
魔将軍アビスは炎症も無しに空間圧縮の魔法をエントラ様にかけた。
空間が一瞬で歪み、辺りにあった物が砕け散る。
だが、エントラ様はそこにはいなかった。
「最初から挨拶だねェ! それじゃあこちらも少し本気を出させてもらうとするかねェ!」
大魔女エントラ様がアビスの身体に触れた。
本来常人ではアビスに触れる事すら至難の技だ。
「枯渇!」
「なっ!?」
魔将軍アビスの身体が一瞬で干からび、粉になって砕けた。
だが、それは彼女の複製体であり、アビスは触れられた瞬間に自らの身体を複製してそちらをメインにしたのだ。
「危ない危ない、こんな凶悪な魔法の使い手が人間にいたなんて、信じられないわ」
「咄嗟の所で避けた……ってわけじゃなさそうだねェ。多分、本体を捨てて現身を作り、それに一瞬で本体を移して難を逃れたってところかねェ」
「フフフ、想像に任せるわ」
凄い! この対決……ただの魔力のぶつかり合いではなく、魔力をいかに使いこなすかの知能戦だと言える。
大魔女エントラ様が強力な魔法をぶっ放せばこの辺りの地形なんて一瞬で焦土と化する。
それはあの魔将軍アビスも同じ、つまり……この二人が本気で魔力対決をやった日には下手すればこの大地すら消滅しかねないのだ。
だから大魔女エントラ様はいかに少ない魔力であの魔将軍アビスを倒すかの方法を考えている。
一方の魔将軍アビスも正攻法では大魔女エントラ様に勝てないのが分かっているようだ。
「お姉様……」
「お師匠様!」
アビスの妹の眷属であるアナ、そして大魔女エントラ様の弟子とも言えるルームさん。
この二人共が最強の二人の対決を固唾を呑んで見ているしか出来ないらしい。
世界レベルで言えばこのアナとルームさんは世界でも五本の指に入るレベルの魔法使いだと言える。
他にこの中で五本の指だと言えるとしたら、大魔女エントラ様、魔将軍アビス、ルームさん、ダークリッチ・アナ、それにドラゴンの神様のアンさんだ。
魔将軍ゲートや黒竜王ヘックスは魔法使いのカテゴリに入らないので除外してある。
だがこれらの存在を入れたとしてもここにいるのは世界で十本の指に入る魔力の持ち主ばかりだ。
大魔女エントラ様と魔将軍アビスの周りに魔力の流れが渦になっている。
これはお互いの持つ魔力が漏れ出して奔流になっているからだと言える。
二人の対決はその後も続き、お互い一歩も引かない対決は半日以上続いている。
その間、ボク達は下手に手出しも出来ないので二人の対決を見ているだけだ。
巨竜城塞は一匹がボクに頭を切り落とされ、もう一匹は落とし穴の中から動けないので何も出来ていない。
アナ以外のバンパイアロードとビーストマスターも下手に動けば自分がやられると思い、全く動けていない。
まさにこの場は大魔女エントラ様と魔将軍アビスだけの独壇場だと言える。
そしてこの二人の対決はまだ決着がつかない。
魔将軍アビスが大魔女エントラ様に致死量の魔法をぶつける。
だが大魔女エントラ様はそれを無効化する。
そして大魔女エントラ様が魔将軍アビスを消滅させるほどの魔法を使う。
だが彼女は肉体が滅びる寸前に複製を作りそちらに本体を移動させるのでいつまで経っても死なない。
こんな攻守一体の魔法攻防戦がいつまでも続いた。
だが、それについに決着がつく時が来た!
勝者は一体どちらなのか!?
それは……意外な結果による決着だった。
大魔女エントラ様と魔将軍アビスのお互いの魔力がぶつかり合い――その結果!
魔法の奔流が消えた時……一人の人影が見えた。




