784 蹂躙する巨竜
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「さあ。楽しいパーティーの始まりよ」
トゥルゥーはそう言うとおぞましい笑みを浮かべた。
彼女が合図をすると、巨竜が吠えた。
「何だアレは!?」
「バケモノだ、デカすぎるバケモノだ!」
「うわぁあああっ!」
ピアンタ工業大臣の兵士達は目の前に現れた巨大すぎる脅威に驚いていた。
「何だあのバケモノは!」
「ここで退くわけにはいかない、工業の力の成果を見せるのだ!」
ピアンタ兵は破城槌と投石機を使い、目の前の怪物に立ち向かった。
本来なら帝国最強の工業力と言われるだけのピアンタ兵は集団になると最強だった。
だがそれはあくまでも軍や人間相手の力、また……モンスターでも常識の内側だと思われるB、A級のモンスターまでだ。
このSSクラスモンスターの巨竜、それも二匹が牽引する巨大城塞なんていう常識の遥か外側に外れたような怪物相手に歯が立つわけが無い。
巨竜は全てを踏みつぶし、目の前に道なき道を次々と作った。
巨竜城塞の通った後に残ったものは、幾多の踏み潰れたか引き潰された屍と、破城槌や投石機であった残骸の木や金属で出来た瓦礫だけだった。
「あら、あっけなかったわね。遊び相手にもならないなんて」
「トゥルゥー、これで終わりじゃないわよね。こんなの暇つぶしにもならないわ」
魔将軍アビスとトゥルーは巨竜城塞の竜の頭の上で退屈そうに地面を見ていた。
もっと楽しめると思っていた蹂躙は、ものの数分も立たずにほぼ壊滅だった。
かろうじて生き残った兵士は、ブーコやアナによって暇つぶし程度に惨殺された。
ピアンタ工業大臣自慢の工業兵軍団は、恐るべき姉妹達の前に全く手も足も出なかったのだ。
「ねえ、お姉様。折角だからこれで街を耕しません?」
「何それ? どういう事かしら」
「家も建物も人間も動物も、全部この巨竜ちゃんと移動城砦の車輪で踏みつぶすの。とても楽しそうじゃありません?」
トゥルゥーは邪悪な笑みを浮かべ、アビスに懇願した。
「良いわよ、さあ……思う存分やっちゃいなさい。さあ、蹂躙の時間よ」
「流石お姉様、話が分かって下さります」
トゥルゥーは近くにあった小さな町をターゲットにした。
彼女は巨竜城塞を使い、小さな町の建物という建物を全て踏みつぶした。
巨竜の足と城塞の車輪に次々と潰された肉塊がへばりつく。
数百、数千といった人命がこの驚異の怪物の前に踏み潰され、消えていった。
「この調子ならあと数日もあればこの国を全て蹂躙できそうね 」
「はい、お姉様の為に頑張りますわ」
「フフフ、可愛い子」
恐るべき脅威が一つの町を何もない荒地にするのに、一時間とかからなかった。
そうして恐怖の城塞の噂は町という町に広がり、人々は逃げ惑い混乱するだけだった。
「フフフ、これでもうこの国もおしまいね。皇帝を使って国をメチャクチャにする予定だったけど、これはこれで面白いわ。さあ、もっと楽しみましょう」
「お姉様、この子達もっと暴れたいって言ってますわ」
アビスとトゥルゥーがそんな風に談笑している時、空の彼方から何か高速で飛んでくる物があった!
「な、何なのよアレ!?」
「お姉様っ! 危ないっ」
高速で飛ぶ物から太陽の光にも匹敵するような光線が放たれた!
「ギャァァッ! 熱い! 熱いィィィ!」
「何なのよ、アタシちゃんにこんな事をするなんて、許せない!」
魔将軍アビスは魔力を集め、高速で飛んできた物体に魔法を放った。
だが、その魔法は魔力結界に阻まれ、ダメージを与える事が出来なかった。
「何!? 黄金の……鳥!」
アビスとトゥルーを攻撃したのは、黄金の鳥――つまりユカ達の乗る飛行艇グランナスカだった。
「魔将軍アビス! お前達は絶対に許さないっ」
「その声は……ユカッ! またお前なのかぁぁぁ!」
グランナスカからユカ達が飛び降り、巨竜城塞に斬りかかった。




